本研究では、子どもの居住空間の変容が意味することについて社会学的に考察した。1990年代以降、居住空間に仕切りを設けない間取り、あるいは居住空間内部の仕切りをフレキシブルに配置することのできる間取り(以下、「開かれた住まい」)を称揚する言説が、住まいの建築計画をめぐる言説空間において支配的となり、今日、「開かれた住まい」は言説レベルから物質レベルへと転換し、実際に新たな商品価値を伴った居住空間として市場に流通している。本研究の目的は、このような「開かれた住まい」を、どのような社会経済的地位(SES)にある保護者が選好するのか、どのような子育て・教育意識を持った保護者が選好するのか、つまり、保護者による「開かれた住まい」選好の規定要因について明らかにすることにある。これまで3年間に渡り収集された量的データの分析を進めた結果、①調査回答者が父親よりも母親である場合、②子どもが自ら進んで勉強している場合、③平日の親子間での接触時間が長い場合、④保護者が子どもに本・新聞を読むように勧めている場合、⑤保護者が理想とする親子関係が受容型(子どもの気持ちに寄り添う・子どもの言い分を丁寧に聴く)である場合、「⑥世帯年収が高い場合(500万円以上)、⑦親が希望する子どもの獲得学歴が大卒以上である場合、⑧保護者が子どもの勉強をみてあげている場合、⑨子どもが学校の勉強が得意である場合、⑩母親の就業形態が専業主婦である場合に、「開かれた住まい」が選ばれる傾向にあることが示唆された。「開かれた住まい」は、子どもの勉学や学校知の獲得に配慮し、子どもが高い学歴を獲得することを望み、日頃子どもとのコミュニケーションをとる時間が比較的長く、受容型・水平型の親子関係を理想とし、なおかつ経済的にも比較的富裕な保護者によって選好されており、それは文化的再生産の装置としての役割を果たしている可能性がある。
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