本研究は、学習と訓練において、それまでの中央統制を基調としたシステムの上に、保守党・自由民主党連立政権以降の各政権が地域社会との協働を図りながらどのような供給システムを構築するか、またその機能がどれだけ実効性を持つかについて明らかにすることを目的とした。分析視点として、第一に後期中等教育の職業的学習とキャリアガイダンスの提供、第二に成人のスキル向上、第三に排除のリスクの高い層の学習と支援サービスという3つの視点から地域社会との協働基盤がどのように構築されているかの3点を設定し、文献調査およびイギリスでの関係諸機関および学校訪問等によって課題の現状を把握した。 2010年の労働党政権から連立政権への移行以来、中央政府は学習とスキル領域の公的支援サービスにおける直接的役割を大幅に縮小し、より実社会のアクターとの連携を重視する形が強調された。特に、後期中等教育におけるキャリア教育・ガイダンスにおいては2011年教育法の改正に基づき大きな改革が行われた。第一に各学校はガイダンスの提供にあたり第三者との連携が義務付けられた。第二にキャリア教育と職場関連学習はカリキュラムの中で提供義務がなくなった。第三に地方当局によるユニバーサルなガイダンスの提供義務もなくなった。 これらの状況について訪問調査等を行い、各学校が自校の責任下で地域との連携を一任され、これまでのパートナーシップ体制が弱化したこと、地方当局との連携のばらつき、生徒に対するガイダンス提供機会の減少が確認できた。リスクの少ない若者へのサービス提供が削減される一方で、福祉領域のケアやキャリア支援は政策動向の影響はそれほど大きくないことも明らかになった。このことは支援サービスの階層性がますます大きくなってきたことを示唆している。この点についての調査を今後の検討課題とする。
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