研究課題/領域番号 |
15K04344
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
豊泉 周治 群馬大学, 教育学部, 教授 (90188813)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | デンマーク / 学習福祉 / 移行的労働市場 / 生涯学習 / 成人教育 |
研究実績の概要 |
学習福祉と移行的労働市場とを繋ぐデンマークの生涯学習政策について,9月に実施した海外出張を中心に,理論と政策の両面から研究を進めた。 9月の海外出張では,3年毎に開催されるヨーロッパ成人教育研究学会(アイルランドのダブリンで開催)に出席し,「成人教育の多様な未来を想像すること:創造性の力と資源への問い」というテーマの下,ヨーロッパにおける成人教育の挑戦の最前線にふれた。総じて学校教育の閉塞を成人教育によって打破する想像力が問われていた。 学会の後,デンマークのオールボー大学およびロスキレ大学を訪ね,成人教育・生涯教育の分野で活躍する3人の研究者にインタビューを実施し,デンマークの生涯学習政策とその仕組みについて,日本の状況についても紹介しつつ,意見交換を行った。絶えず変化を続けるデンマークの生涯学習制度の見取り図を作ることは容易ではないが,帰国後,研究成果を基に学会報告を行った。 「学習福祉の欠如」(したがって移行的労働市場の未形成)という観点から日本の教育制度と労働市場の問題状況を分析する課題に関しては,さしあたり日本における高校中退者の窮状と通信制高校の実態に注目して研究を進めた。デンマークにおける後期中等教育からの脱落者に対する多様な教育支援と対比すると,日本における教育支援の欠如は歴然としており,次年度には研究成果をまとめたい。また,これらの研究と併行して,従来から継続してきた日本の若者についての研究を進め,民主主義との関連を主題とする研究論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デンマークの研究者との交流を基に,学習福祉と移行的労働市場とを繋ぐデンマークの生涯学習政策とその仕組みについて研究を進め,学会報告を行うことができた。 前年の調査では,フォーマルな成人教育とノン・フォーマルな成人教育の現場を視察し,両者が補完的に機能するデンマークの生涯教育の特質にふれたが,本年度はデンマークの教育制度全体のなかにフォーマルおよびノン・フォーマルな成人教育を位置づけ,その意義を検討することができた。また,ヨーロッパ成人教育研究学会への出席を通じて,EU各国で進められている成人教育・生涯学習の挑戦的スタンスについても知ることができ,本研究の視野を広げることができた。 「学習福祉の欠如」(したがって移行的労働市場の未形成)という観点から日本の教育制度と労働市場の課題を検討する研究は緒に就いたばかりだが,具体的な手がかりとして高校中退者の窮状と通信制高校の実態に注目して研究を進めることができた。併行して,従来から継続してきた日本の若者についての研究を進め,民主主義との関連を主題とする研究論文を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年となる平成29年度も,現地での調査および研究交流,関連文献資料の研究によって,デンマークにおける学習福祉と移行的労働市場の理念と現実,生涯学習社会としての福祉国家の現代的形成について研究を進める。併行して,日本における高校中退者の窮状と通信制高校の実態の分析を中核として,「学習福祉の欠如」(したがって移行的労働市場の未形成)という観点から日本の教育制度と労働市場の問題状況の解明を深め,それと対比してデンマーク福祉国家の現代的形成の意義を浮き彫りにしたい。 筆者は以前の研究において,1990年代後半から労働市場の分断と不安定化にさらされてきた日本の若者の窮状に照らして,デンマークの生産学校における若者の教育と再生に着目し,ノン・フォーマルな教育の意義について検討した。本研究の最終年の研究においては,それらの成果も踏まえて,フォーマルな教育とノン・フォーマルな教育とが補完し合うデンマークの生涯学習社会が,移行的労働市場による若者の社会的包摂を支えていることを総括的に明らかにし,日本における「学習福祉の欠如」に対する問題提起とする。
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