研究課題/領域番号 |
15K04345
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
前田 早苗 千葉大学, 国際教養学部, 教授 (40360739)
|
研究分担者 |
工藤 潤 公益財団法人大学基準協会(大学評価・研究部), その他部局等, 大学評価・研究部長 (70360740)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 高等教育の質保証 / 質マネージメント / アクレディテーション / 内部質保証 / クオリティエンハンスメント |
研究実績の概要 |
アメリカにおいて機関別アクレディテーションを実施している南部地区アクレディテーション協会大学委員会(SACS-COC)とSACS-COCの認定を得ている4大学(ジョージア工科大学、ジョージア州立大学、エモリー大学、クラークアトランタ大学)へのインタビュー調査を行った。その事前準備として、SACS-COCの現行の評価システムの特徴、中でも質のマネージメントに関し、大学に求めている事項についてウェブページ等で調査を行った。特に、SACS-COCの特色である質向上計画の立案と遂行を大学に求めている点については、インタビュー調査の主要なテーマの一つに設定した。 この事前調査に基づき、SACS-COCでは、近年の評価システムの改革の背景と目的、評価プロセスにおける委員会やスタッフの役割等について事前調査の確認と補足を行った。 4大学へのインタビュー調査は、SACS-COCとのリエゾンの役割を担っている副学長やInstitutional Effectiveness (IE)オフィスの責任者を中心に行った。 SACS-COCの評価は、他の地区のアクレディテーション協会に比して、質の向上計画を中心とした質のマネージメントを重視する傾向にあり、各大学の取組の資料の収集としては収穫が大きかった。ただ、質のマネージメントシステムは、自律的というよりSACS-COCの要請に即して実施しているという側面も否めなかった。質向上計画については、教育プログラムとは別個に策定するものであることから、ある意味で大学にとっては負担であることも判明した。総じて、アクレディテーション協会の要請が長期間かけて学内に浸透した結果、質マネージメントシステムが定着している大学が多く、大学のオートノミーと質保証システムの確立の関係性へのアクレディテーション協会の介在の意味について来年度のテーマに加えることとしたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SACS-COCの評価は、大学に対してSACS-COCとのリエゾンとなる担当者を複数名おくことを求めている点が他の地区のアクレディテーション機関とは異なる特徴を持っていることである。このことは、これまでの他の地域の調査に比して大学のインタビュー調査での質保証システム構築にかかる情報が多かったことと無関係ではない。教育とこれに関わる実務の両面で教育成果に関わるシステム構築が進んでいる所以であろう。その反面、ジョージア工科大学では、SACS-COCの評価を、他の地域と比べて伝統的・保守的であるとする声も聞くことができた。20年ほど前にはどの地域のアクレディテーション機関もほぼ同じ基準、同じプロセスで評価を行ってきたことからすると、現在の地区アクレディテーション協会の評価は、それぞれ独自色を出している。その中にあって、SACS-COCも評価方式を改革しているように見えるものの、それが保守性を堅持したものであるとすれば、質保証システムの自立性との関係について新たな視点を与えてくれるものである。 SASCSのシステムが保守的であるか否かはさらに考察の必要があるものの、大学におかれた複数名のリエゾンが、質保証システムの構築とその運営に実質的に深くかかわっていることが確認できた。具体的には、IR(データ収集分析)機能とIE(質向上推進)機能の連携がスムーズであり、一般の教職員の質保証に関わる情報へのアクセスがしやすく、質保証への理解が得やすい。結果的にデータに基づく質保証システムが有効に機能する仕組みができているといえる。 このように、大学の質マネージメントにとって教員の自律的・自主的関与のあり方を主要なテーマとする本研究においては、SACS-COCとその認定大学の調査は貴重な収穫となった。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度である29年度は、基本的に27、28年度と同様の調査を行う。すなわち、これまでの研究で調査対象としてこなかった中部諸州地区アクレディテーション協会または北西部地区基準協会のどちらかとその協会が認定した大学への訪問調査を行う。なお、今年度の調査結果から、大学の自律的な質保証に資するためにアクレディテーション協会がどのようなシステム構築を行っているのかという新たな視点から、これまでの調査を見直すとともに、29年度の調査研究の質問項目にも加えることとする。 また、3年間の調査を通じて得られた成果から、①質保証の組織・体制、責任者の任期、権限と責任の範囲、教育プログラムの質保証への具体的な関与の状況などの大学における質マネージメントの側面と、②学習成果の評価などの具体的な質保証の手法の2つの視点から調査結果の分類化を行う。その際、大学の規模、専門領域、設置形態等に関わらず、質マネージメントに共通して求められる要素、評価機関の評価システムから影響を受ける要素、大学の規模、専門領域から影響を受ける要素等に分けて分析し、事例研究の果実としてまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
インタビュー調査は比較的長時間になるため、録音を取ることとしている。今年度の調査は、3月に実施せざるを得なかったことから、その調査の成果を精選して文字起こしするための時間的余裕が年度内には無かったため、次年度の早い時期に実施することとしたことによる。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、インタビュー調査の文字起こしに使用する予定である。
|