本研究は、教育費負担と教育費負担支援制度の新しい在り方を提案することを目的に、日本社会における教育費負担とそれを軽減する諸制度を歴史的、理論的、実証的に検証するものである。平成29年度は、質問紙調査の実施・分析を通じて、教育費負担と負担軽減のための制度の在り方について社会的支持を得られる制度枠組みを検討することを中心に取り組んだ。 平成29年度は、平成28年度に創設された大学生を対象とする給付型奨学金制度が、平成29年度から部分的に先行実施されるという制度転換と、平成29年度中に政治主導で提案された「高等教育の無償化」の動向に留意しつつ、当初の研究計画に沿って、教育関係者として高校、行政関係者として地方自治体首長を対象とするアンケート調査を実施するとともに、平成28年度中に実施した社会調査の分析を進めた。高校と自治体首長への質問紙調査は、前年度社会調査を実施した2都県にに立地する高等学校・中等教育学校(後期課程)522校、102市区町村を対象に、平成29年7月~8月に実施した(有効回答率:高校調査31.2%、自治体調査31.0%)。 さらに、関連する政策動向として、平成29年12月に「新しい経済政策パッケージ」が閣議決定され、そのなかに「高等教育の無償化」が位置付けられ、具体的な政策提案がなされたことから、このことについて大学がどのように受けとめているかを明らかにするために平成30年3月に全国大学学長に対する質問紙調査を実施した(発送数780件、有効回答24.1%)。この結果、「新しい経済政策パッケージ」が示す、無償化の対象となる大学側の要件に対しては、賛成より反対が多く、新たな政策提案が大学に困惑をもたらしていることを明らかにした。 これらの調査結果の一部を平成29年度中に関係学会で報告し、論文で紹介するとともに、それぞれの調査の集計結果を研究室のウェブサイトで公表した。
|