研究課題/領域番号 |
15K04353
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
大前 敦巳 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (50262481)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教育社会学 / 歴史社会学 / 高等教育 / 日仏比較 / 文化的再生産 / 首都圏 / 教育計画 / 新構想大学 |
研究実績の概要 |
日仏の首都圏において20世紀初頭から1970年代にかけて拡張発展した国立大学に着目し、パリ・東京大学の周辺に新大学が創設された過程を、大学史の先行文献やアーカイブ資料に基づいて比較を試みた。P.ブルデューとF.K.リンガーの文化的再生産に関する歴史社会学の方法論を検討し、日本で展開された文化的再生産の経験的研究もふまえながら、伝統的大学に先がけて国際的な社会変化に対応し、社会養成に応える計画化を図り、新たな人材養成を企てた新大学の先導的役割を分析した。 フランスではE.デュルケムの社会学に代表される新ソルボンヌを端緒として、戦間期の社会経済発展と戦後の国家総合計画と高等教育計画に基づく大学拡張の政策形成が図られたことを明らかにし、1960年代のオルセー・ナンテール分校設置、68年フォール改革に伴う大学実験センター創設、70年代のパリ13大学分割、90年代の郊外ニュータウンでの新大学創設に至る拡張過程を論じた。ソルボンヌの古典的学問に対して、ディシプリン複合性・学際性に基づく現代的研究教育を推進し、戦前のマルサス主義的な人口抑制策から、人口増を積極的に是認し近代的経済発展を図る反マルサス主義への政策転換があり、国家主導の計画思想の下でパリ地域圏の大学が発展したことを明らかにした。 日本では1918年大学令と文部省「高等諸学校創設及拡張計画」を経て、東京商科大学、東京工業大学、東京文理科大学の昇格に至った過程と、特に東京高等師範学校から1929年文理科大学設置、戦後の東京教育大学から1973年筑波大学創設へと発展を遂げた政策形成を分析した。戦前期から欧米の計画思想の移入による高等教育計画の策定が企てられ、震災や戦災を契機とする国家復興計画の影響も受けたが、帝国大学に対する機能分化、経済状況や政財界との関係などにより、計画が理想型に留まる中で大学拡張が進展した様相を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日仏の高等教育と大学史に関する基本文献と首都圏の新大学創設に関わるアーカイブ資料を収集し、それらの整理を行って両国の国立大学拡張過程に関する政策形成の特徴を把握して、学会発表と論文執筆をおよそ予定通り進めることができた。ただし、日本の事例においては、核となる論点を絞って、東京高等師範学校から東京文理科大学、東京教育大学、筑波大学に至る拡張過程に焦点を当て、資料の収集・整理・分析の作業を進めることにした。 両国とも、首都圏の新大学創設に伴う政策形成の大筋の流れをたどることができたが、個別の大学に関する詳細な拡張過程、その背景となった社会経済的要因、計画思想の「国際転移」を伴った政府(国家)の役割などについては、今後の分析課題として残された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、両国とも首都圏に新設された個別の国立大学に着目した拡張過程の分析を行い、政府(国家)主導の計画に基づく政策形成とその社会経済的要因についての比較を試みる。フランスにおいては、2016年に筆者と交流のある同様の関心をもつ研究者らが、『パリ大学からイル・ド・フランス大学へ』(レンヌ大学出版部)と題する図書を刊行したので、その知見に基づいた日仏比較をなす議論を展開し、特に戦前期の実証科学の発展に伴う各学部の専門分化(特に教育科学の自律化)に着目して、国内では収集できない博士論文やアーカイブ資料などの現地収集調査を行う予定である。 日本に関しては、東京文理科大学昇格に至った拡張過程を『(東京)高等師範学校一覧』の学籍簿データなどに基づく分析を行い、東京帝国大学や他大学・専門学校との関係性に着目した社会的位置を把握し、大学昇格運動が高揚した内部過程と、政府や文部省、国内外の時代状況などを考慮した外部過程に分けて考察し、フランスとの比較を試みる。可能であれば、他大学・専門学校の学籍簿などの資料にもあたって比較に向けたデータを作成・分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、フランスでの現地資料収集調査を予定しているため、外国旅費による使用額が多くなり、他の費目の支出が抑制されると予想するため。
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次年度使用額の使用計画 |
日仏の高等教育に関する新刊図書を中心とする物品費に使用する。
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