研究課題/領域番号 |
15K04353
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
大前 敦巳 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (50262481)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教育社会学 / 歴史社会学 / 高等教育 / 日仏比較 / 首都圏 / 新大学創設 / 高等師範学校 / 文化的再生産 |
研究実績の概要 |
20世紀以降の日仏の首都圏に新大学が創設されていった過程について、本年度は神田・本郷から周辺・郊外へと広がった官立大学のキャンパス拡張に着目し、パリのカルチエ・ラタンから拡張発展した過程と比較する試みを行った。 特に、東京高等師範学校が東京文理科大学に昇格した事例を取り上げ、その布石となった1900年の湯島から大塚への拡大移転の歴史的経緯をたどり、国家計画や植民地経営との関わりを検討した。また、各年の本科卒業生名簿に記載された族籍、出身地、就職先、職歴などを分析し、帝国大学の「正系」ルートとは異なる「傍系」の学校体系の中で、教育の「総本山」と呼ばれ、官費制により教育機会が開かれたとともに、服務義務により教育界に閉じたキャリアを歩むことが多かった卒業生が、どのような社会的特性を帯びた集団であったかを検討した。その結果、創設期の士族中心から平民が主体になった中で、多くの者が地方から上京して東京高師に進学し、卒業後も地方や植民地に分散して主に中等教育教員に就職し、地方を遍歴していくパターンが多くみられ、大正期には帝大進学を経て民間企業に転身していくケースも増えたことを明らかにした。教員名簿からも族籍、出身地、卒業学校などを分析し、地方の士族出身で東京帝大から教員が多く供給されていたことを明らかにした。それらの結果を士族から教員への「転換の戦略」という観点から考察を試みた。 フランスでは大学より上位のグランドゼコールとして高等師範学校が設置されたが、20世紀初頭にパリ大学に併合された時期もあり、当時の教育科学をはじめとする職業専門的な実証科学の専門分化に影響を与えた可能性があり、その後の大学拡張過程を比較するための文献資料収集と現地調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、いろいろな試行錯誤を重ねながら研究の方向性を探ったが、東京とパリの中心部から周辺・郊外へと広がった国立大学のキャンパス拡張に関するアーカイブ資料を収集してその分析を行い、一定の知見を得ることができたことと、高等師範学校の教員・卒業生名簿を用いて、大学の拡張発展に影響を与えた歴史的経緯を分析したことにおいて、研究期間中の到達目標をかなりの程度達成したと自己評価することができる。当初予定していた理工系や社会科学系の職業専門的な拡張過程にまで手を広げることができなかったが、教育科学や師範教育を中心とする新しい大学の発展について、ある程度掘り下げた歴史的・比較的研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も高等師範学校を起点として、日仏の首都圏における国立大学が拡張発展した過程に着目した資料の収集・分析を進めるとともに、最終年度に向けてフランスの研究協力者と連絡調整を図りながら研究成果の発表を行い、最終報告書を作成して関係者に配付する。 フランスではパリ大学においても、高等師範学校の影響を受けた教育科学をはじめとする職業専門分野の自律化が進んでいった可能性があり、それに着目した大学拡張過程の分析を試みる。 日本においては東京高等師範学校から東京文理科大学に昇格した政策過程や社会経済的要因を引き続き分析するとともに、さらに可能であれば、戦前に大学昇格運動にまで至った女子師範教育や、理工系・社会科学系の領域における大学拡張過程も含めた資料の収集と分析を行い、研究発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、フランスでの現地調査と研究報告のための海外旅費を予定しており、また最終報告書の印刷・発送のための費用がかかり、他の費目の支出が抑制されると予想されるため。
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次年度使用額の使用計画 |
日仏の高等教育とパリ・東京の歴史に関する新刊図書を中心とする物品費に使用する。
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