本研究は、グローバル化と急速な技術革新が進行する中、中国とインドの2大新興国を事例に取り上げ、90年代以降の両国における産業人材育成システムの変化とその要因を明らかにするものである。より具体的には、国全体、産業、教育機関、企業の4つのレベルを取り上げ、(1)これら2国のそれぞれに固有な社会構造や制度がどのように「産業人材育成システム」の形成に影響しているか、(2)グローバル化に伴う経済環境の変化に対応して、両国の政府(中央・地方政府)が産業人材育成政策・制度をどのように変化させているか、(3)両国の「産業人材育成システム」がどのように変化しているか、(4)どのような要因によって、職業技術教育・訓練(Technical and Vocational Education and Training: TVET) 機関・企業での産業人材育成パターンの変化がもたらされたか、の4点を解明することを目的としている。 本研究では、中国・インドの産業人材育成政策と制度、さらに教育訓練機関や企業における訓練体系に焦点をあて、質的な研究方法を用いて比較分析を行った。特に政治経済学における新制度論に依拠し、制度論的分析フレームワークを用いて、フィールド調査を通じて収集した詳細なデータを基に、マクロ(国)レベル、メソ(産業)レベル、ミクロ(教育訓練機関、企業)レベルの3層に焦点をあて、重層的な分析を行った。具体的には、両国の近年の産業構造、産業政策・産業人材育成政策・教育政策、労働市場、教育訓練制度等を理解し、インド・デリー、ラジャスタン州、ハリアナ州、中国北京において現地調査を行い、両国の企業・大学・TVET機関における産業人材育成パターンの変化に関するデータ収集を行った。さらに、比較対照のためタイにて現地調査を行い、タイの大学・TVET機関における産業人材育成に関するデータ収集を行った。
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