研究課題/領域番号 |
15K04357
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
平畑 奈美 滋賀大学, 国際センター, 准教授 (70520906)
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研究分担者 |
西山 教行 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (30313498)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日本語教師 / 国際ボランティア / ジェンダー / 女性のキャリア形成 / グローバル人材 |
研究実績の概要 |
研究初年度であった2015年度は、まず、先行研究、関連分野の資料の収集、検討を行った。「国際ボランティア」、「グローバル人材育成」、「女性のキャリア形成」、など、日本語教育に止まらない幅広い領域の資料にあたった。また、2014度末に終了した前科研調査で収集したインタビューデータを、本科研の研究主旨に沿い、「ジェンダー問題」という視点から再分析する作業にも取り組んだ。前科研では性差の問題に注目することなく分析を行っていたが、再分析を通じ、海外での日本語教育に従事する女性の抱える問題が浮き彫りになってきた。さらに、国際的な業務に携わる女性を対象とするインタビューのパイロット調査も開始した。財団法人日本国際協力システムに勤務する日本人の女性管理職、および、フランス政府から派遣されている日仏会館の女性仏語教師が対象者である。 これらの調査の結果、明らかになったのは、主に次の二点である。第一に、国際的人材育成領域において、ジェンダー問題は不可視化される傾向がある。「国際的な舞台で活躍できる人材」は、各種資料を見る限り、暗黙のうちに男性のエリートを想定したものとなっているが、実際には日本語教育をはじめ、多くの異文化接触の現場で働いている人々の主流は女性の非正規雇用者である。第二に、そのような女性たちが多数派を占める日本語教師は、雇用環境改善議論から取り残されている。第一の問題については、社会学領域の文献の一部で指摘はあるが、日本語教育の領域からの指摘は現在までのところ確認できていない。これは第二の問題とも関連するが、日本語教育界が非正規雇用者を中心として成り立っているため、自身を対象とする研究の推進が難しいことが理由ではないかと推察できる。 これらの問題の所在とその深刻さを確認し、2016年度の本調査推進に向けて準備を進めている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、先行研究の非常に少ない領域で推進している。本研究の対象は日本語教師であるが、「研究実績の概要」で述べたように、日本語教育学領域は一般の教育学領域と異なり、日本語教師それ自体を社会的視点でとらえた研究が少ない。我が国では、保育・介護・各種サービスなど、女性が多く従事する職の処遇の問題については、徐々に研究が進みつつある、本研究でも、これを踏まえた研究枠組みの構築を目指しているが、日本語教育という職業の複雑さ・位置づけの曖昧さが、その作業の障害となっている。日本語教師と一律に呼ばれる人々の社会階層の幅は広い。ある面を見れば高度な専門職であり、高学歴女性の自己実現のために選択されることもある一方で、国家資格が不要であることから、高齢者やボランティアが低報酬で従事することも多い職である。こうしたことから、さまざまな領域の資料や人的リソースにあたらなければならず、予定したよりも長い時間が必要になっている。それに加えて、2015年度は、前科研の収集データの再分析を行い、それをまとめるという作業に取り組む決断を行ったため、当初予定していた新たな調査に入るのが遅れている。ただしこれは厳密には遅れではなく、研究の充実を図る上で妥当な変更であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度に、まずは、これまでに行った文献調査、前科研収集データの再分析、および既に行ったパイロット調査の結果をまとめ、報告を行う。現時点で、2016年7月および9月に、イタリアとインドネシアで開催される学会において、この内容についての口頭発表を行うことが決定している。 また、引き続き、文献調査も推進したい。特に、若年層の日本語教師志望者の減少について確認する必要性を感じている。訪日外国人の数が急増し、国内外のグローバル化も進む中で、日本語教育へのニーズはますます高まり、日本語教師志望者数も増加しているとされる。しかしこれまでに行った調査の結果、実際に増加しているのは民間の日本語学校の日本語教師養成課程受講者であることが判明した。大学の日本語教師養成課程に所属する学生数は、10年間で約4割減少している。これは、日本の国際化を牽引できる専門性を身につけ、真に国際的な舞台で今後活躍できる人材の減少を意味している。この背景に、海外で推進する日本語教育が「女性のキャリア形成」手段としての魅力を失っているということがあるのかどうかを確認したい。 その上で、海外で国際ボランティアに参加する女性のキャリア形成を支援するための研修プログラムを具体化すべく、新たな調査を行う予定である。現在中央アジアないし東南アジアでの調査の可能性について検討し、関係各所との調整を行っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要に述べたとおり、研究の信頼性を高めるため、調査研究の手順を変更した。2015年度は、申請時に予定していた調査を行わず、まずは前回科研データの再分析に取り組み、浮かび上がる課題を確認してから新たな調査に進むこととした。そのため2015年度の調査経費に余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな調査は2016年度および2017年度に実施する予定であり、その際この繰り越した助成金を利用する。
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