研究課題/領域番号 |
15K04357
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
平畑 奈美 滋賀大学, 国際センター, 准教授 (70520906)
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研究分担者 |
西山 教行 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30313498)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国際ボランティア / 日本語教師 / 女性のキャリア形成 / グローバル人材 |
研究実績の概要 |
当該年度はこれまでに収集したデータの分析処理を行い、まとめ、中間報告として公開することを作業の中心とした。その結果、年度内にイタリアおよびインドネシアでの研究発表をそれぞれ1回ずつ行い、また三本の論文(査読付)を発表することができた。 日本語教育という、産業振興とは異なる領域で活動を重ね、技術を磨いてきた国際ボランティア経験者は、その8割が女性であるが、当該年度の作業、活動を通じて、国際ボランティア日本語教師のキャリア形成における問題が、より具体的に把握できるようになった。特筆すべきは、彼女/彼らが、「専門性」と「社会貢献」に、強いこだわりを持つことが明らかになったということである。国際ボランティア日本語教師(経験者を含む)の、仕事や生活に関する価値観を、NHK調査によって確認された日本人一般のそれと比較したところ、国際ボランティア日本語教師は、自身の専門性を活かして社会に貢献できる仕事をしたいという希望が日本人一般と比べて強く、生活の安定や収入の高さを度外視する傾向があった。彼女/彼らは、国際ボランティアの経験を通して培った日本語教育の専門性・技術を、帰国後も活かして働きたいと願っている。ところがその一方で、日本においては国際ボランティア日本語教育の経験は非常に低い評価しか受けないと考えており、日本でのキャリア継続に悲観的である。 従来、国際ボランティアの帰国後の支援策として、「再就職」の斡旋が重視されていたが、これは十分な効果の期待できる対策ではなかったということも、この調査結果は示唆している。国際的な業務に携わり、その専門性を磨いてきた日本語教師を、日本で活用し、社会への包摂を推進していくためには、企業への就職を支援するよりも、より有効な対策が存在すると推測されるが、その詳細についてはまだ具体化できていない。この問題について調査するのが、次年度の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗がやや遅れている主な理由は以下の二点である。まず、外部的な要因として、海外での調査のコーディネートを依頼していた協力者が異動したということがある。自国語教師を国際ボランティアとして大量に海外に派遣している国としては、英米についでフランスがある。英語とは異なる位置づけをされる言語として、日本語とフランス語には共通点があり、本調査においても、フランスの派遣するフランス語教師について調査すべく準備をすすめてきた。だが、現地の調査協力者が現地所在の日本の出先機関から、現地の大学に移籍したことにより、調査を延期せざるをえなくなった。調査協力者とは引き続き調整を進めており、次年度には調査が行える見通しである。 次に、研究の内部の要因として、これまでの調査結果を再検討した結果、次段階の調査の方向に修正が必要だとわかったということがある。当初、国際ボランティア女性の帰国後の社会包摂、社会上昇が困難であるのは、彼女たちが疎外されているからではないかと考えていたが、より正確には、彼女たちが自ら日本社会から距離を置き、より自由度が高いキャリアを選択しようとするからだということがわかってきた。そうであれば、再就職を支援する教育プログラムの策定を考えていた当初の方向性には、変更を加えなければならないということになり、調査計画の再設定を行っていた。 こうした事情により、当該年度の調査推進にはやや遅れが生じているが、次年度には遅れを取り戻すことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当該年度に実施できなかった海外調査を推進したい。海外から日本に帰国した後、再び海外での日本語教育の現場で活動することを選び、渡航した日本人女性たちのその後のキャリア形成のあり方について、詳細なインタビューを行う予定である。加えて、他国では、国際ボランティア語学教師はどのようなキャリア形成を行っているかも比較のために調査したい。まずはフランスでの調査を行う予定であるが、さらにオーストラリアでの調査が実施できる可能性もあり、現在情報収集を行っているところである。 また、引き続きグローバルに活躍できる人材のキャリア教育プログラムについての調査も行っていきたい。専門性の伸長に強い希望を持つ彼/彼女らに、より充実したキャリア構築の可能性を開くためには、企業への再就職のためのプログラムではなく、成長の実感を与えられる、高等教育プログラムのカリキュラムを開発するべきであり、これに関連した情報の収集を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況」に述べた通り、海外での調査が延期になったことが、次年度使用額が生じた最大の理由であるが、これは今年度に解決できる見通しである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は海外での調査を実施する予定であり、旅費および調査協力者への謝金として予算を使用する。また、年度末には日本において国際シンポジウムを開催、さらには本研究の成果を書籍として発表することも視野に入れており、その場合は予算の一部を経費として充てる。
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