本研究では、「社会保障の教育推進に関する検討会報告書:生徒たちが社会保障を正しく理解するために」(2014年7月)に注目し、次の2点を基軸に据えて研究を進めることとした。それらは順に、(1)検討会報告書が提唱する「これからの社会保障教育」の内容を把握する。(2)前記の(1)を分析する目的で、(検討会報告書が公表される前の)高等学校の公民および福祉の教科書を収集・分析し、「従来の教科書で教授されてきた社会保障観」を調査する、というものである。 調査の結果は、次のようになった。すなわち、平成27年度・高等学校公民科(現代社会)における特徴は、(ⅰ)「社会保障の理念」に関する言及よりも、社会保障に関する簡単な歴史的経緯、および「わが国は社会保険制度が中心である」という制度論的な記述が多く認められる、(ⅱ)年金制度の持続性には懐疑的な論調の教科書が多くを占める、(ⅲ)いわゆる「世代間格差」に関しては、受給額などにおいて世代間に極端な格差があることを否定しない教科書が散見されると同時に、社会保険制度内における「制度間格差」の存在を指摘するものも少なくない、(ⅳ)以上の調査結果を踏まえると、少なくない現行の教科書の論調には、検討会報告書が目指す教育指針とは異なる部分が確認される、(ⅴ)それ故、今後の教科書で社会保障がどのように描かれるのか(=教授されることになるのか)が、より一層注目される、というものである。 なお、上記の知見は、次の論文にまとめられた。阿部敦「中学・高校生を対象にした社会保障教育政策――『社会保障の教育推進に関する検討会報告書』の観点から」『地域福祉サイエンス』(第2号)、地域福祉総合研究センター、2015年10月、143~161頁。
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