本研究は,EU(欧州連合)の新経済成長戦略「欧州2020」の5つのヘッドライン指標に含まれた教育分野の「中等教育段階の早期離学率を10%未満に」への注目から始まる。研究期間中,毎年度発行されるモニタリング報告書をもとに,加盟国の指標達成状況を継続して分析検討し,成果は研究論文にまとめている。 期間後半および最終年度は,2004年以降の新規加盟国(EU10諸国)に着目し,離学率が高い国から低い国を含む東・中欧5ヵ国を取り出し,背景の多様性と共通性について比較考察をすすめた。雇用状態別,性別,国内地域間格差,都市化別格差,教育環境の経済的課題,資格のある教員や専門支援員の不足等が強弱を伴って複層的にあり,そこにロマの離学率の高さという共通課題が加わっていた。ロマの離学率の高さと他の背景の組み合わせが異なることを発見でき,その要因追究のためには,ロマの問題に回収されない要素のさらなる洗い出しが必要であることもわかった。加盟国の早期離学対策状況については,Eurydice(EU機関)による構造的指標の全方策(10指標)に対応しているのは5ヵ国(2019版,いずれも東・中欧ではない)で,ほとんどの加盟国で対応している方策は3つであることがわかっている。 以上と並行して実施した当初の計画によるフランス現地調査(研究協力者)では,セカンドチャンスの教育(E2C)を中心に早期離学対策の現状等を把握することができた。同じくイギリスの現地調査は新型ウィルス感染拡大等により実施できずに残る課題となった。最終年度には成果として,研究協力者と共同学会発表をおこなった。また,現時点で,E2Cとしての職業教育の再考の必要性,日本の定時制・通信制高校の示唆と再考,中等教育と相互関係のある学校内外の居場所の考察など,社会的排除に抗する早期離学対策がどのような意味を持つのかという次の課題が見えてきている。
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