本研究では「被虐待児童」と社会的に認知されるに至った子ども、あるいは過去にそうした経験をもつ成人を捉えて、児童虐待を経験した子どもの社会化過程の側面を長期的に把握・解明することを目的とするものである。 特に、これまでの家族病理研究において、アプローチの困難性から捉え損ねてきた児童虐待経験者(=当事者)の視点に焦点を当て、相互作用論的視点を取り入れ、彼らの生活過程を再構築することを試みた。この方法によって、これまで社会側が効果的・善意的・必要であるという前提で行ってきた福祉的・教育的支援に対する当事者の評価を得ることができるとともに、児童虐待経験後の子どもの社会的発達を彼らの生活過程上で解明することが可能となる。また、長期的社会化を分析対象としていることから、児童虐待の世代間再生産の問題解明の糸口にも繋がり、児童福祉等の現場に対しては応用可能で有益な知見の提示を、学術的には「児童虐待と子どもの社会化」に関する研究の理論的発展を目指すことが可能になると期待した。 平成30年度は、子ども期に受けた虐待的養育が自身の発達においてどのような影響を及ぼすのか、そして特に、それを自覚する契機と年齢、そしてどのように解消しようと試みるのかに関する戦略に焦点を当て聴き取り調査を実施した。具体的には、①子ども期には自分自身の境遇や形成された性格については、まさに子ども期であるために気付くことが難しく、②社会人になって以降も、家庭的出来事・経験の不足からハンデを負う場面があり、③しかしそうしたハンデの解消方法について自覚できるのは、就職・結婚といった社会的地位を形成する契機を経て直ぐではなく、長時間の生活経験を要することが明らかになった。こうした結果については、日本社会病理学会(2018年9月)において口頭発表している。
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