本研究の目的は、ひとり親家庭に対する給付政策をめぐって発生した裁判の分析を通して、福祉国家体制が縮減する中で、ひとり親家庭がどのような紛争にさらされ、また社会政策に対してどのような「抵抗の運動」を試みてきたのかを、具体的争訟にそって明らかにすることである。こうした目的の下、平成27年、平成28年度は、父親からの認知に伴う児童扶養手当の打ち切りをめぐる裁判について、生活保護母子加算の廃止をめぐる裁判について分析した。 平成29年度は、これらの裁判の分析・総括に加えて、今後の社会的支援のあり方を模索するため、高校教師に対するインタビュー調査を実施し、ひとり親家庭の子どもの学校での様子や教師の認識、学校の対応の在り方などについて研究した。その結果は、論文として公表した。また、以上の研究を総括して報告書を電子媒体で刊行した。 これらの研究の結果、研究期間全体を通して、以下の点が明らかとなった。まず、ひとり親家庭に対する給付政策は、単なる経済的な再配分の問題ではなく、社会からの承認の問題であるということを、児童扶養手当の分断化の歴史を跡付ける中で明らかにした。同時に、生活保護母子加算も、生活保護を受給する母子家庭がどのように社会に参画するのかを問う裁判であることが明らかとなった。そのため、社会に参画する準備期間である学校教育(特に高校教育)には、子どもの社会からの承認という点で大きな役割があることが明らかとなった。 以上の研究全体を通して、福祉国家体制が縮減する中で、ひとり親家庭に対する社会全体の承認の重要性を学術的に明らかにすることができた。
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