研究実績の概要 |
研究年度を1年間延長し(共同研究者が途中1年間産休のため)、最終年度となった2018年度は主に研究成果の発信を行った。本研究課題の集大成の一つとして、両名の所属学会である異文化間教育学会の紀要「異文化間教育」48号に、論文「海外経験がキャリア形成にもたらすインパクト ー大学短期留学経験者と帰国生の語りから―」を、岡村郁子、額賀美紗子の連名にて執筆した(2018年4月発行)。この論文は、グローバル人材育成施策の下で海外留学を経験した学生の学びを定性的に評価し、幼少・学齢期を海外で過ごした帰国生の経験と照らし合わせることによって、留学経験がキャリア形成にもたらすインパクトについて明らかにしたものである。留学経験者については修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下, 2013)を用いて質的に分析した。具体的な内容を以下に示す。 大学からの留学経験者22名、帰国生16名へのインタビュー調査によって、海外経験を通じて獲得した能力とそのキャリアへのインパクトを比較することにより、海外の高等教育機関に留学することの意味や、1年程度の海外留学の効果を考察した。大学短期留学経験者は、適応力・順応力、コミュニケーション能力、異文化への理解力などの能力を身につけつつも、世界のレベルの高さを目の当たりにして自信を喪失したり、短期留学の限界を感じたりしていた。キャリア形成においては、海外の就職活動の合理性に触れたことから日本企業や就活に対する違和感を覚え、留学によってキャリアの方向転換をしたものも多く、結果として22名中ほぼ全員が「海外につながるキャリア形成」を希望していた一方、帰国生もほぼ全員が「海外につながるキャリア形成」を目指す点で留学経験者と同様の結果であるが、かれらは「帰国生」というポジショナリティから自分の能力を捉え、それをキャリアに活用しようと考えている点が特徴といえる。
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