本研究は日本における教育型大学の卒業研究の教育実態(人文社会科学分野を中心に)を検討するもので、仙台を中心とする東北の大学の卒研に取り組んだ学生と教員のアンケートとインタビュー調査の結果に基づいて、学生と教員の卒研への取り組み状況、卒業論文の完成度とその要因、卒業研究の教育に対する評価という三つの側面から分析した。 その結果、卒業研究に積極的に取り組んでいる学生は少なくないが、学生間に大きな違いが見られた一方、教員は精力的に取り組んでいるものが大多数である。卒業論文の完成度について大きな差があり、自分の卒論の完成度は合格できないレベルであると自己評価している学生が1割もいる。 学生の回答結果を用いて卒業論文の完成度に影響する要因に関する重回帰分析を行った結果、「高校での成績」、卒業研究が「選択科目であるかどうか」、「教員の論文添削回数」は正の影響力をもち、「4年次の履修単位数」が負の影響力をもっている傾向が見られた。 「高校成績」の影響は基礎学力の多様性からもたらした卒論の完成度への影響をうかがえるが、「4年次の履修単位数」の負の影響と「選択科目であるかどうか」の正の影響は入学時から卒業研究を取り組む前の学修状況が重要であることを物語っている。この意味において高校までの学習の蓄積はいかに重要か、学士課程、とりわけ卒研前の教育プログラムでいかに学習の効果をあげられるかは、より先決的な課題であることを示唆している。 「教員の論文添削回数」の正の影響は卒論の完成度は教員の努力によるところが大きいことを意味している。しかし、教員の努力は必ずしも卒業論文の成果に繋がっていないことから卒業研究の必要性について教員の意見が大きく分かれている。特に教育効果が限定的であるという結果から、教育型においては学生の特徴に合わせた、卒業論文と異なったプログラムの開発・提供が必要とされているだろう。
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