研究課題/領域番号 |
15K04373
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
末田 清子 青山学院大学, 国際政治経済学部, 教授 (70244829)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 女性管理職者 / コミュニケーション・スタイル / 半構造化面接 / 構成主義版グラウンデッド・セオリー / トライアンギュレ―ション / TEA |
研究実績の概要 |
本研究では、日本の一般企業の女性管理職者を対象に質的研究を行い、彼女たちのコミュニケーション・スタイルにどのような特徴がみられるか、またどのようにアイデンティティを表出しているかについて探索的研究を重ねた。2017年度は、これまで蓄積した知見を理論的サンプリングで確認し、その研究蓄積の1)国内外の学会での口頭発表(5件)、2)学術論文(投稿し掲載に至る)(3本)に専心した。また調査参加者(女性管理職者)による講演も行った。本調査では、女性管理職者および、彼女らと働いた経験をもつ協働者(合計27名)に35回の半構造化面接を実施した。また調査参加者の勤務する企業は、外資・日系の企業を網羅し、業種もIT、金融、製造、サービス、広告、観光など多岐にわたる。データは、構成主義版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。 調査の結果、女性管理職者ついて以下の4点が示唆された。1)女性管理職者は職場環境を開放的で有効な場所にしようとしている、2)女性管理職者は、柔軟にそのコミュニケーション・スタイルを変えている、3)女性管理職者は、必要に応じて様々なコミュニケーション手段を使っている、4)女性管理職者に対する評価は流動的である、ことが示唆された。また1)から3)の結果は、女性管理職者のコミュニケーション・スタイルを示し、その特徴からemployee-oriented コミュニケーション・スタイルと名付けた。女性管理職者の特徴として浮上した“employee-oriented コミュニケーション・スタイル”は、女性の役割(アイデンティティ)への期待とその受容とに関係していることがわかった。 また、2017年12月、女性管理職者の草分け的存在であるA氏に依頼し、女性管理職の果たす役割、コミュニケーションのあり方、グローバル・リーダーの在り方についての講演を行って頂いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「当初の計画以上に進展している」という表現が適切な理由は以下の四点である。 まず、当初3年間でデータ収集および分析を行う計画を立てていたが、ほぼすべてのデータ収集・分析(日本企業および外資系企業の女性管理職者およびその協働者(男女)27名)を2年間で達成でき、本年度は得た知見を理論的サンプリングにより確認し、その成果の学会発表と論文執筆に集中することができたことである。二点目は、データ収集・分析の過程で、一般企業以外の組織で行った半構造化面接で得た知見(研究参加者6名)を理論的サンプリングに援用することができたことである。三点目は、外資系企業での勤務歴が長い女性の研究協力者・井上美砂氏(青山学院大学)と、日本企業での勤務歴が長い男性の研究協力者・平山修平氏(桜美林大学)を得ることにより、本研究から導き出した知見を男性管理職者と相対化し議論することができたことである。四点目は、CGTA(構成主義版グラウンデッドセオリー)の成果をテキスト分析を用いてより深く省察できたことと、新たな研究手法としてTEA(複線経路等至性アプローチ)を用いて、特定の管理職経験者に対して約10回のインタビューを行うことができたことである。 以上の四点により、本研究の知見をさらに豊饒化させることができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として四点挙げる。まず、英文・和文で未完成論文(投稿中も含む)を完成させ、国内および海外の学術雑誌への掲載も目指す。また、2018年8月の異文化コミュニケーション学会(世界大会)で研究の最終報告を行う。 二点目は、研究を進めるなかで、女性管理職者のコミュニケーション・スタイルに関する研究から新たな研究テーマへの繋がりの可能性がみえたということである。研究参加者の一部は、女性管理職者であるというだけでなく、グローバル・リーダーの先駆的存在でもあった。女性グローバル・リーダーという新たな研究テーマに着手する可能性を視野に入れて今後の研究に活かしたい。 三点目は、当初掲げた設問の2番目「女性管理職者はそれぞれの企業のなかで周辺的な立場からどのように中心的なポジションをとるに至るか」について考察することである。この問いは正当的周辺参加に関わり、展開させるにはこれまでと同じくらいの時間を要する。今後の課題としたい。 最後の点は、2017年12月に行った研究参加者による講演のように、学生を対象にした講演会やシンポジウムを行うことである。学生と研究参加者とのインタラクションから女性管理職者としてコミュニケーションを行うときに必要なこと、またあまねく管理職者に必要とされるコミュニケーション・スキルを学べる機会としたい。ジェンダーおよびエスニシティにおいて多文化化を迫られている一般企業に就職する学生たちにとっては、学問的知見のみならず実践的学びの機会となるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果をまとめた論文を現在ある国際ジャーナルに投稿中であり、場合によってその論文の修正を求められることが予想される。また本研究の成果としてさらに別の論文を執筆し、それを別の国際ジャーナルへ投稿したり、国内で行われる学会で口頭発表したいと考えている。
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