本研究では、日本の一般企業の女性管理職者を対象に構成主義版グラウンデッド・セオリーおよびテキスト分析を行い、彼女たちのコミュニケーション・スタイルにどのような特徴がみられるか、またどのようにアイデンティティを表出しているかについて探索的研究を重ねた。2018年度は、これまでの研究蓄積のまとめを、国内で開催された国際学会において口頭で発表した。また、学術論文2本を発表した。そのうちの1本は、海外の学術雑誌に掲載された。 本研究の最大の成果は、これまで受容されてきた「男性はタスク志向で女性は関係性志向」という二項分立的な知見を超えた結果が得られたことである。具体的には、職務上の目標達成のために、女性管理職者たちは、オープンで親しみやすい職場環境づくりを目指し、部下をサポートし、様々なチャンネル(媒体、言語・非言語メッセージ)を駆使してコミュニケーションを行っていることがわかった。これを、employee-oriented communication style(部下に配慮するコミュニケーション・スタイル)と名付けた。 また、そのようなコミュニケーションをとることによって女性管理職者は高評価を得て、その好循環で部下を育てることに力を尽くしていることがわかった。この結果は、アイデンティティおよび役割という観点からみると、社会の役割期待に合致した行動をとるときに人は評価されるというrole congruity theory(役割適合性理論)と結びつく。逆に社会の役割期待に合致しない行動をとるときに女性管理職者は評価されない、もしくは批判の的になる。よって昨年度までの本研究でみられた「女性管理職者に対する評価は流動的である」という結果も、role congruity theoryに合致しており、女性管理職者のコミュニケーション・スタイルの特徴を裏付けていると考えられる。
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