研究課題/領域番号 |
15K04385
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研究機関 | プール学院大学 |
研究代表者 |
中島 智子 プール学院大学, 国際文化学部, 教授 (80227793)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 朝鮮学校 / 統廃合 / 小規模校 / 教育地理学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、朝鮮学校の統廃合過程を解明して履歴図を作成することと、小規模校の存続戦略と課題を明らかにすることである。 本年度は、愛知県内朝鮮学校の70年の歴史における新設・移転・統廃合について、昨年度に引き続き現地調査を行い、その結果を履歴図で表し、約10年ごとの県内朝鮮学校配置図を作成した。同県では、学校体系が整備された1956年には中等教育機関が1校、初等教育機関が12校あったが、現在は前者が1校、後者が3校である。前者については、1948年の開校後、1950年~61年の間に5回の移転を繰り返しているが、その理由は校舎の接収や交通の便、生徒数増と都度によって異なっており、5回の移転はそれぞれに対応した策が練られた結果であることが判明した。初等教育機関の統廃合は、1960年代には児童数の増加によるもので、それ以外は児童数の減少によるものだった。学校統廃合が、近年になるにつれ遠距離間の統合となり、現在の県北西部3校と南東部1校に二極化していく推移を地図上で検証したことは、教育地理学的観点を用いた方法として、今後の研究に資するものと考える。 次に、小規模校に関する研究としては、中部地域の朝鮮初級学校8校の4~6年生の児童が2泊3日で行う合同授業を調査した。昨年度は関東以北の学校の合同授業を調査したが、全国の朝鮮学校では小規模校のデメリットをダイナミックな合同授業によって解消していることがわかった。また、静岡朝鮮初級学校を訪問して、校舎新築にあたって小規模であることを前提とした教室配置や教室間の壁をなくしているなどの工夫と、それによって教育活動上にどのような変化をもたらしているかを実地調査できた。さらに、毎年訪問している四国朝鮮初級学校では、本年度は1~3年生の複式学級が試みられていた。このように、学校や地域毎に様々な存続戦略が立てられていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は最終年度であるため、昨年度に調査した愛知県については履歴図を完成させて分析を終え、本年度は兵庫県の調査を行って、これまでに収集した全国のデータと突き合わせながら朝鮮学校の統廃合に関する総括的な分析をおこなう予定だった。 ところが、愛知県の履歴図を完成させるために収集したデータを検討する過程で、データが不足していたり、データ間に矛盾があったり、新たな疑問が生じて調査をする必要が生じたため、予想以上の時間を取られてしまった。利用できる文書データが少なく、当時の関係者を探すことにも時間がかかったためである。しかし、結果的には、これまで明らかになっていなかった事実が判明したり、県単位の履歴図や年度毎の地図の作成というこれまでの先行研究にはない新たな成果をもたらすことができた。それによって成果論文を書くことができ、この成果には愛知県朝鮮学校関係者も関心を示されており、調査協力者への研究成果の還元ができた。ただ、そのために、当初予定していた兵庫県内朝鮮学校の調査については、準備は整えたもののほとんど時間を割けなかった。 小規模校の存続戦略と課題の解明については、概ね順調に調査が進んだ。 以上から、研究課題の解明という点ではある程度の結果を出せたが、全体の進捗という点ではやや遅れている。よって、研究期間の延長申請を行った。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の延長申請が認められたので、2018年度が最終年度となる。 朝鮮学校の履歴調査については、2018年度前半に兵庫県の調査を行う。兵庫県も愛知県同様、広い県内にかつては数多くの朝鮮学校が配置していた。これまでの調査経験から、各学校のデータや関係者探しにはかなりの困難が見込まれ、調査のスムーズな進捗のためには調査に協力してもらえるキーパーソンの存在が重要であるため、まずはキーパーソンとの信頼関係の構築に努めながら効率的に調査を行っていく計画をたてている。 他県の履歴図作成としては、これまでに調査を完了した広島県と岡山県の履歴図を作成するとともに、県単位の履歴図だけではなく中国四国地方を見渡した履歴図を完成させる。 小規模校の存続戦略と課題の解明については、すでに調査はほぼ完了しているので、収集したデータをまとめて分析し、成果発表できる形でまとめる。 なお、成果発表については、昨今の朝鮮学校を取り巻く状況から、朝鮮学校に弊害が及ばないように関係者に相談するなど慎重に行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、今年度は愛知県と兵庫県の調査費用と、最終年度であるために3年間の研究成果発表の費用を予定していた。しかし、愛知県の調査をまとめる段階で補充調査が必要になるなど想定以上に時間がかかったため、兵庫県の調査を本格的に行うことができなかった。その結果、全体の成果をまとめる作業もできなかったため、研究期間延長申請をし、次年度使用額が生じることになった。 したがって、次年度は、兵庫県の調査に支出するとともに、成果発表費用に充てる予定である。
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