研究課題/領域番号 |
15K04390
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
久保 良宏 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80344539)
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研究分担者 |
黒谷 和志 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40360961)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 数学教育 / 批判的思考 / 社会的文脈 / 可謬主義 / 批判的教育学 / 批判的数学教育 / リスク / 対話 |
研究実績の概要 |
「批判的思考」は、次世代を生きる子どもが身につけなければならない汎用能力の一つであると考えられる。本研究では、数学教育において「批判的思考」を検討する理論研究を踏まえ、これを小・中・高の学校現場での具体化を目指している。ここでは目標概念と方法概念の2つの側面からの検討が重要であると考えている。 目標概念については、究極的な目標として、民主的な社会を維持・発展させるという「民主的能力の育成」に着目しているが、研究2年目では、中間的な目標として、事象を批判的にみるという「批判的思考」の態度形成に焦点をあてて検討を加えた。また、方法概念としては、「社会的な問題の考察に数学を批判的に用いる」という視点に着目して検討してきた。研究2年目は、昨年度の課題であった「リスク」に焦点を当て、幅広い学問領域から検討を加えたが、ここでは、「確率・統計」、「安全と安心」、「数値情報」、「受動的リスクと能動的リスク」、「リスクの回避」、「リスクの責任」の6点を数学教育における「批判的思考」の「リスク」を捉える観点とした。 また、これらを踏まえて、「新聞記事を批判的にみる」という社会的文脈に着目し、「プロ野球のトリプルスリーの報道」に関する教材を開発した。この教材を用いて高等学校において「出前授業」の形で授業実践を行ったが、これにより、昨年度までに規定した数学教育における「批判的思考」を捉える8つの視点が、特に「感情的推論」「先入観」という点から修正する必要性が生まれた。ここでは、「リスク」の着目から、「批判的思考」が理性面だけで捉えられるものではなく、「価値観」などにも目を向けて検討する必要があると考えられた。ここでは、数理科学的判断力や意思決定にかかわる検討の重要性も示唆された。なお、このような点については、「批判的思考」の目標概念ともかかわるものであり、来年度(最終年度)の課題として捉えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3年計画の2年目は、前回の科研の成果と昨年度の検討を踏まえ、予定以上の進展がみられたと捉えている。 特に、日本数学教育学会の春期大会において、「数学教育における批判的思考」について再検討し、事象を批判的にみる態度形成についての考察を深められたこと、「社会的文脈」に照らした数学教育における「批判的思考」の具体化において新たな教材を開発し、授業実践から生徒の反応を分析的に考察できたこと、また、昨年度の課題となっていた「リスク」に着目することにより、考察の幅が大きく広がったことなどが大きな要因であった。 これらについては、日本数学教育学会の秋期大会、春期大会、さらに、北海道教育大学旭川実践教育学会の「旭川実践教育研究」に論文としてまとめることができたことも大きい。 また高等学校においては、「社会的文脈」だけでなく、「数学的文脈」から「批判的思考」の具体例を挙げ、全国算数・数学教育研究大会において、昨年度に引き続き継続的に研究発表ができたことも今年度の研究成果として価値があったと捉えている。ここでは、北海道地区の研究グループによる中学校における実践に加え、東京地区の研究グル―プが高等学校における実践を発表したことが大きい。研究協力者との共同研究により、教師教育の面からも検討が加えられたことは、理論研究だけでなく、実践研究を深めることができたと捉えている。 一方で、理論研究を踏まえて多くの実践研究を発表してきたが、小学校の実践においては研究成果を発表する機会が少なかったは今後の課題であり、教材研究の段階でとどまっているという反省もある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である来年度の課題としては、まず第一に、数学教育における「批判的思考」の目標概念について検討することがあげられる。 「研究実績の概要」でも述べたように、「批判的思考」は民主的な社会の維持・発展という点から考察を深める必要があり、例えば「民主的能力」の育成ということが目標概念として位置づけることが重要であると考えている。ここでは「批判的教育学」や「批判的数学教育」において検討されているアーネストやスコウスモウスの論考等から多くの示唆が得られるのではないかと考えている。現在のところ、スコウスモウスについて「数学教育と民主主義」に関する検討は行っているが、これをより深めることが重要であると考えている。 次に、数学教育における「批判的思考」を捉える8つの視点を、「問題の明確化」「事実と価値の区別」「正当な主張か否かの区別」「一般化への注意」「感情的な推論の需要」「他の解釈の発見」「論理的思考」「先入観の認識とその排除」とし、昨年度までのものを若干修正したが、この点についてさらなる検討を加えることも課題である。 さらに、これまでの研究から「批判的思考」の方法概念として、「a.社会的なも問題の考察に数学を批判的に用いる」「b.算数・数学の問題の解決過程を批判的にみる」「c.数学(数学的表現)を批判的に捉える」を挙げてきたが、特に「c.数学(数学的表現)を批判的に捉える」について、「数学を批判的に捉える」という可謬主義に立つ数学教育について検討することも重要であると考えている。ここでは、アーネストやヤブロンカの論考が参考になると考えている。 またこれらを踏まえ、小・中・高における授業のさらなる実践が必要であると捉えている。特に、先にも述べたように、小学校の実践が重要な意味を持ち、これによって、小学生においても「批判的思考力」の育成が可能であるかが検討されることになると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研の研究会にかかわる旅費、および、物品(特に消耗品)の購入を予定していたが、年度末の申請期間に間に合わず、来年度の使用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費については、科研の研究会を平成29年度に開催することとし、また、物品については、消耗品であることから、必要に応じて適宜使用する予定である。
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