本科研は、前回の科研の継続研究である。これまでの研究から、「批判的思考」は、教育学や心理学、また看護学等から多くの示唆が得られることがわかったが、これらを踏まえ、本科研では、数学教育の数学的文脈だけでなく、社会的文脈に目を向けて検討した。 本研究の目的は、「算数・数学と社会・文化のつながり」研究などを「批判的思考」から捉え直し、数学教育における「批判的思考」の具体例を社会的文脈から示すとともに、特に「批判的思考」の目標概念について明らかにすることにある。「批判的思考」は、対話や志向性などに着目して、先入観に捉われることなく真実により近づいていく思考である。これらの点を踏まえ、「批判的思考」の着眼点として、「問題の明確化」「事実と価値」「主張や処理の正当」「一般化や定式化の是非」「感情的推論」「他の解釈の認識」「論理的な思考」「先入観の排除」の8つを導出したが、社会的文脈における具体化では、特に「事実と価値」を区別すること「感情的推論」の受容などの重要性が示唆された。 このような視点から検討を加えた結果、「批判的思考」の背景には「価値」の捉え方があり、さらにここでは「リスク」に目を向けることが重要であると考えられた。この「リスク」の検討では、「確率・統計」「安全と安心」「数値情報」「受動的リスクと能動的リスク」「リスクの回避」「リスクの責任」への着目が大切であるとの結論を得た。 このような考察を踏まえ、これを「批判的思考」の目標概念の検討へと深めたが、その結果、「批判的思考」は「民主的能力の育成」の中に位置づけられる(民主的能力としての批判的思考)が、同時に、「批判的思考」を通して「民主的能力」を育成することが重要であると考えられた。
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