研究課題/領域番号 |
15K04401
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小川 雅子 山形大学, 教育文化学部, 教授 (40194451)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神話教材の開発 / 伝統的な言語文化 / 神話の書き換え / 教科書教材の分析 / 国語科教育 / 古事記研究 |
研究実績の概要 |
現行の小学校学習指導要領(国語)には、「伝統的な言語文化」(第1学年及び第2学年)の内容に「神話」が新たに明示された。しかし、戦後の国語科教育には、神話の教材化や指導についての議論や実践の蓄積がないので、その教材化や指導に独自な深まりや発展性がみられない。そこで筆者は、『古事記』冒頭部の紙芝居を作成・実演して、小・中学生を対象に神話の受容の実態を調査した。その結果から、学習者の主体的な解釈を生かす神話教材の読みの視点について3点(「世界の神話と比較する視点」・「神話の比喩を読む視点」・「現代神話を創造する視点」)を提案した。それをふまえて、本研究では、現代の学習者の主体的な読みが、神話をどのように読み替えるのかについて明らかにする。 学習者の神話の解釈の傾向を知るために、小学生に対する調査を継続して行い、これまでの成果の一部を論文にまとめた。さらに大学生を対象に、『古事記』神話の冒頭から「天之石屋戸開き」までの内容について記述式調査を行った。その調査には留学生も加わり、自国の神話と比較して日本神話を興味深く捉えていた。その留学生との交流で神話に対する興味が深まっている現実を通して、大学生の日本神話の読みには、世界の神話と比較する視点が有効であることを確認した。 また、現行の小学校国語教科書の神話教材について、『古事記』原文と内容を比較したところ、教材化における書き換えの実態とその問題点が明らかになった。教科書では、まとまりのある話の一部分だけを切り取って飛躍した内容になっていたり、登場人物の性格に善悪を明確に付与して教訓的な話としてまとめらたりしている。すなわち、教科書教材において、執筆者が神話を独自に読み替え作り替えている実態が明らかになった。この『古事記』神話教材化の実態を大学生に示して、神話の教材化について検討しながら神話の教材化の問題点を整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、現代の学習者の主体的な読みが、神話をどのように読み替えているのかを明らかにすることである。 そのために、出前授業を活用して『古事記』神話の紙芝居を実演して学習者の感想や疑問のデータを積み重ね、これまでの成果の一部を論文にまとめることができた。さらに100名以上の大学生を対象に、『古事記』神話の冒頭から「天之石屋戸開き」までの紙芝居三部作を実演して、疑問や独自の解釈等を調査した。そこでは、漫画やゲームというすでに書き換えられた神話を知っている学生たちが原典に触れた驚きや戸惑いが明らかになった。また、留学生は自国の神話と比較して日本神話を興味深く捉えていた。留学生の解釈を知ることによって、世界の様々な神話に興味をもつようになった学生が出てきた。大学生への調査を通して、漫画やゲームの神話が原典と異なって様々に書き換えられていることや、日本神話の読みには世界の神話と比較する視点が有効であること等が明らかになった。 また、現行の小学校国語教科書の神話教材について、『古事記』原文と比較して記述内容の違いについて調査したところ、教材化における書き換えの実態が明らかになった。教科書では、まとまりのある話の一部分だけを切り取って飛躍した内容になっていたり、登場人物の性格に善悪を明確に付与して教訓的な話としてまとめらたりしている。すなわち、教科書教材においては、執筆者が神話を独自に読み替え作り替えているのである。これは、神話の教材化における大きな問題であると考える。学習者の主体的な読みを議論する前に、学習者には神話ではなく、個人の価値判断によって書き換えられたものが与えられているという、神話教材の問題点が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
1.『古事記』神話を学習者がどのように読み替えるのか、現代という時代環境において神話はどのような可能性をもっているのかを、小学生から大学生を対象とした調査によって明らかにする。そのために、第4部「大国主命」の現代語訳テキストを完成させる。小学生にも分かりやすいテキストにするために、研究協力者に依頼した挿絵を生かして構成する。原典の内容に沿って「稲羽の素兎」から「少名毘古那神と国作り」までの内容をまとめるので、現教科書教材とは異なる部分が出てくる。このテキストを、教科書を学んだ学習者に指導して、感想等を調査する。その結果をまとめて、学習者が読み替える神話のテキストの第2部を完成させる。 2.第3部までの紙芝居は、小・中学生を中心に(高校生・大学生も含む)引き続き実演して、神話の受容と解釈の実態について調査する。特に、学習者がこれまで知っていた内容との違いを中心に調査することによって、様々に書き換えられた神話を学習者が受容してきた実態を明らかにする。 3.研究協力者が「児童読み物における神話の書き換え」について調査研究を行う予定である。児童読み物(絵本を含む)を対象に、主にどのような書き換えが行われているかを調査・分析する。 4.日本神話が成立時から現代までの間に様々に書き換えられて伝承されてきた経緯についてさらに文献を調べて整理する。その成果を示して、現代の大学生はどのような書き換えを行うか調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
『古事記』神話を学習者がどのように読み替えるのか、現代という時代環境において神話はどのような可能性をもっているのかを、小学生から大学生を対象とした調査によって明らかにするために、第4部「大国主命」の現代語訳テキストを作成する予定であった。その作成の過程で、教科書調査の分析、現代語訳の文章、挿絵の検討等に時間がかかり、当該年度では印刷を行うことが困難になった。そのため、調査用テキスト作成費用としての予算を使用することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度から取りかかっている調査用テキストを今年度前半に完成させる予定である。今年度後半に、そのテキストを用いた授業を行い、学習者の感想や解釈をとりまとめる。現代に生きる学習者が神話をどのように解釈して、さらに読み替えているのか、その結果をまとめて印刷する。
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