平成20年から小学校学習指導要領(国語)「伝統的な言語文化」(第1学年及び第2学年)の内容に「神話」が加えられた。しかし、国語教育においては、戦前の国定教科書の神話教材が政治的影響を受けすぎていたことから、戦後は神話教材もなく指導をめぐる議論もほとんどなかった。そのため、現行教科書には「いなばのしろうさぎ」の再話が掲載されているが、多くの教師が原典である『古事記』神話を知らないので、授業では、他の物語教材と同じように場面や登場人物の心情を想像させる読みの指導が行われている。 本研究では、各教科書会社の「いなばのしろうさぎ」を原典と比較して、それぞれの教材文は作者によって読み替えられた再話であり、原典とは異なった教訓話になっていることを明らかにした。原典には教訓的な表現がなく、登場人物の言動を記述しているだけである。そこで、原典の内容を示して、それを学習者が主体的に読み替えるという観点に立った教材化と読みの指導が必要であることを指摘した。そして、神話というジャンルの特性を生かしたそのような学習活動が可能であるかどうかを確かめるために、『古事記』神話の紙芝居を作り、その理解度を調査した。すると、低学年の児童でも、教科書では省略されている内容も的確に理解でき、古事記研究における課題と同じ疑問点をあげていることが明らかになった。 このような調査結果から、国語教育では神話教材を教訓話として与えるのではなく、『古事記』がさまざまに読み替えられてきたように、現代の学習者が自ら多様な認識や思想を読み取るような教材化と指導が必要であることを明らかにした。そして、教育基本法に示されている国際化時代の学習として、神話というジャンルの特性に着目して世界の神話との共通性をにも目を向け、人類の言語文化としての神話の発想や認識の根源にふれる指導が必要であることを明らかにした。
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