本研究の目的は,中学校1年生を対象に,比例・反比例の単元においてデザイン研究を行い,授業を通しての生徒の変容を捉え,関数の学習指導と評価への示唆を得ることである。 本研究は,以下の手順で進めた。1.先行研究を考察し,本研究の枠組みを構築する。また,授業デザインの方針を確認し,GeoGebraを活用した授業シナリオを作成する。2.2015年に第1サイクルを実施し,結果の整理と授業改善の方向性を検討する。3.2016年に本研究のメインである第2サイクルを公立中学校2校各1クラスで実施し,構築した枠組みを用いて結果を考察する。4.研究全般を振り返り,成果および課題についてまとめる。 本研究では,関数的思考の進展を2つの側面から捉え,それぞれについて枠組みを構築した。1つは関数的思考の要と言える「変化」「対応」に関わる推論の側面である。ここでは比例,反比例について学習軌道を設定し,生徒の「変化」「対応」に関わる推論の質がどう進展するかを考察した。他の1つは談話(discourse)の側面である。ここではSfard氏のコモグニション論を参照し,比例,反比例が数量関係の特徴(xの変化に対するyの変化のスピードが一定か否か)を伴って,あるいは,特徴について語られていたかを考察した。 考察結果は紙面の制約上省略するが,関数的思考の進展を評価する視点の構築が出来たのは1つの成果である。また事後調査から,「変化」に関わる推論がより活発に観察されたクラスにおいて,グラフの理解が進んでいる様子が見られた。「対応」中心の指導の現状に対して,「変化」の推論を活発化させることの可能性が見出された。一方,GeoGebraの授業実践への取り入れ方がクラスによって異なった。ここからは,新たなリソースを授業に効果的に取り入れる上で,教師のニーズや関心を問題とし,共同で省察を行うことが重要であることが分かった。
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