児童生徒の相手意識の発達過程とレトリック研究とを融合した作文カリキュラムの開発を行うため、今年度は以下の3点の研究を行った。 (1)学習指導要領における「書くこと」の領域の目標と内容について経年的に分析した。日本の作文指導における指導内容の系統性は、主として学習指導要領が示す「系統表」 によって規定されている。「書くこと」領域の場合、「題材の設定」「記述」「推敲」といった文章作成過程が示され、それぞれの段階ごとに指導事項が示されている。この文章作成過程に即した指導法は日本の作文指導の一般的な方法として定着しており、「主題」「取材」「構想」「記述」「推敲」の5段階の作文指導過程が設定されていることを指摘した 。同時に、指導過程だけでなく作文技術を明確化することの必要性も指摘した。 (2)欧州で古代ローマ時代に開発され伝統的に採用されている「プロギュムナスマタ」(レトリックを基盤とした作文カリキュラム)を取り上げ、そこで求められている作文技術を抽出し、系統性について検討を行った。系統性については2016年度にも検討を行ったが、ここではさらに、作文技術の配列とその指導方法について検討した。その結果、基礎的かつ重要な作文技術として「要約」と「構成」が位置付けられていたことを明らかにした。その意義について、日本の作文指導への援用という見地から比較考察を行い、「要約」は様々な学習活動に必須の作文技術であること、「構成」は発達的に自然には習得されにくい作文技術であることなどから、有効な示唆となると結論づけた。 (3)(2)の成果を受け、特に小学校における「要約」の段階的な指導について考案・試行を行った。一定の成果は得られたが、その評価方法、および「構成」に関わる指導法の開発については課題として残された。
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