平成31年度(令和元年度)は、二つの題材を開発した。 1つ目は「前橋の美術2020」(群馬県前橋市/令和2年2月8日~3月15日:コロナ禍により3月4日に閉幕)に、1954(昭29)年から1970(昭45)年頃まで商店街にあった画廊を運営した現社長の祖父および父の人間模様に題材を求めた作品を制作して公開した。倉庫として使われていた同所を約50年ぶりに展示空間に設えた。個人史に着目した点が前年度までに開発した題材と異なる。会期中に資料を提供する鑑賞者が現れた他、社長をはじめ複数名の語り部が現れたという行動変容が確認できた。 2つ目は群馬県富岡市立小学校で行なった実践である(令和2年2月19日~27日/全4時限)。当該地域で江戸時代に出土したオオツノシカの骨が龍のツノだと考えられていたという史実に着目して開発した題材であり、児童の生活圏にある5箇所で収集した物を、収集の様子も含めて鑑賞した。その後、児童が興味を抱いた収集物(収集場所)にもとづいて5班に別れ、場所と収集物の関係を考慮しつつイメージを膨らませ、粘土等をつかって復元(創造)をする造形活動をおこなった。結果、場所について多様に考えることができたともに、イメージを膨らませて造形活動に取り組むことことができた。 研究期間を通して地域資源を活用した5つの題材を開発し、小学校で1つの実践を実施した結果、研究の目的に照らして次のことが明らかになった。 (1)題材の主題および造形力によって美術館と同等の鑑賞体験は得られる。美術館外での公開は、場所自体が地域資源かつ学習環境になるため学習に付加価値を与える。(2)鑑賞者は地域資源を体験的に学習する。(3)鑑賞者の行動は変容する。鑑賞者は、当事者性の獲得ならびに世代間交流を通して社会化する傾向にある。
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