最終年度の今年も引き続き国内外の小中学校を訪問して,授業観察や学校観察をすることに努めた。仮説生成型の質的研究法を方法論として採用しているからである。最近アメリカではPaul C. Gorski(元ジョージ・メイソン大学教授)が,「公正さ」をどう教えるかというテーマに関心を示し研究が充実し始めたところである。彼の近著に"Case Studies on Diversity and Social Justice Education" (by Paul C. Gorski and Seema G. Pothini (2018))があるが,タイトルが示すようにケーススタディを用いて「エクイティ・リテラシー」を育む方法を提唱している。 ケーススタディでは,紛争や葛藤を内包する事象を取り上げて論点・争点について考察させる方法や,社会的事象についての賛否や形式的判断と実質的判断の視点に立って思考させて,判断や意思決定をさせる方法などが考えられる。また学習者が葛藤を抱えて価値のバランスのとり方に悩む経験が重要である。そのためには,ICTの「シミュレーション機能」が有効であり,繰り返し試行錯誤できる機能が活用できると考えた。 授業観察から得られた結論は次の諸点にまとめることができる。①「公正」は状況に依存する概念であり,社会的事象の「形式的側面」と「実質的側面」の両者のバランスを考えることが必要で,そうすることにより「公正」の認識は深化する。②そのためには,多様性のある多文化社会では,正しさが複数あり絶対的解がないという認識を学習者が持つようになることが重要である。それにはICTを活用するなどしたケーススタディが有効である。③さらに,多様なニーズを持つ集団を把握する際には「全体」と「個」の両方に配慮する,巨視的視点と微視的視点とを併せ持つ捉え方が必要である。
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