研究課題/領域番号 |
15K04414
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
加藤 圭司 横浜国立大学, 教育人間科学部, 教授 (00224501)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 科学観 / 中学生 / 科学知識の獲得 / 科学に対する情意 / 授業方略 |
研究実績の概要 |
本研究の主たる目的は、学習者の内面に望ましい科学観を創り科学との心的な関係性を改善していく理科授業構築の指針を得ることと、その指針に沿った授業を具体的に試行し、その効果と指針の有用性を検証すること、そして、それら授業実践例を事例的に蓄積することである。 平成27年度は、科学者の具体的な課題追究過程やその行為を知り、理科における課題解決との類似性を感得する「方法論的視点(アプローチ)」と、科学的な知見の歴史的変化といえる科学史の内容を授業に取り入れていく「内容論的視点(アプローチ)」の2つの授業構築指針を、中学校理科の授業において試行しデータ収集することであった。 「方法論的視点(アプローチ)」に力点を置く授業としては、中学校理科第2分野「気象」単元において「天気予報にチャレンジしてみよう!」という小単元の授業を立案・実施した。この授業では、専門家である気象予報士と自分達中学生の気象予報に関する手続きを比較しながら、「似ているところと違うところ」を見出すとともに、将来の科学技術の発展において天気予報の的中率が100%になるかを考えさせる活動を組み入れた。「内容論的視点(アプローチ)」に力点を置く授業の具体例としては、第2分野「生命の連続性」単元の中で「遺伝」の学習を立案・実施した。この授業では、「遺伝学研究の変遷からメンデルが遺伝学に与えた影響を考える」学習活動を組み入れた。具体的には、「当時、メンデルの考え方は通説と大きく異なっていたため認められなかったが、研究の進展によって認められるようになったこと」を紹介し、科学的知識は年月を経る中で発展し、そこには人間である科学者の関与(知見創出)が大きく影響することを知ることが目指された。 これらの授業を通じた生徒の科学観等の変容については、質問紙法を中心にデータとして収集できたことから、28年度の分析・検討に進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
授業実践を通じたデータ収集はおよそ実施できたことから、上記の判断とした。ただ、試行した2つの授業実践を、明確に「方法論的視点(アプローチ)」と「内容論的視点(アプローチ)」に対応させて性格付けするのは、授業の内容から見てやや無理があるのかも知れないという判断は持っている。このことについては、今後の詳細な分析を待たなければならないが、気象単元と生命の連続性(遺伝)単元の2つを「方法論的」「内容論的」に分けて位置づけるというよりは、むしろ、それぞれの授業の中に両方の側面が含まれている部分があり、ここの授業についてそれらを明確化することが授業構築の指針をより正確に明らかにできるのではないかと考えている。 進捗状況の一部は、先の「研究実績の概要」においても記したので、併せて確認していただければ幸いである。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、これまでに収集できたデータを分析し、生徒の科学観の変容を明らかにすることを目指す。科学観の分析は、主に質問紙に記載された言語情報に対して行う。分析にあたっては、科学観に関する3つの側面(「存在論」、「認識論」、「社会学」)と、それらの考え方を支える8つの「解釈のレパートリー」を評価軸として用い、3つの側面それぞれについて望ましい科学観であるかどうか、変容は見られたのか、それらの考え方を根拠付けている生徒固有の理由づけとはどのようなものなのかを特定する。 なお、「解釈のレパートリー」の判定については、自由な形式の言語表現に対して特定を行うため、分析者の恣意性が含まれる可能性があることから、複数の評価者に協力してもらうなどして、評価のモデレーションを併せて行う。 授業実践を通じて科学観が変容した生徒については、当該の理科授業のどの段階でどの側面が変容したのか、その変容に寄与したと考えられる学習要因や活動は何であったのかを、「方法論的視点」の授業、「内容論的視点」の授業それぞれから特定することを目指す。この変容については、生徒個人によって異なるものであることが推測されるので、数量的かつ統計的な処理を行うのではなく、あくまで質的・個性記述的な分析を試みる。この分析から、設定した授業構成指針の二つの妥当性について、具体的な授業レベルで明らかにできるのではないかと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
機材を調達するなどして概ね順調にデータ収集を行うことができたが、それらを整理し詳細な分析に持ち込むまでの手続き(授業記録等の作成など)を、十分に進めるまでには至らなかった。また、行った授業実践の省察等が十分にできなかったことから、授業者や研究協力者との連絡・調整、収集したデータの共有と確認が不十分なままで27年度を終えている。このことから、授業記録の作成補助の謝金や会議費等の執行が十分にできなかった。今年度も引き続き授業実践やデータ収集等で授業実践者には協力をいただく予定であるし、授業記録作成は今年度行う予定であるので、今年度の中で執行を行っていく。
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次年度使用額の使用計画 |
研究協力者との連絡調整に関わる費用の執行や授業記録の作成補助の謝金の執行を、今年度の早い段階から行うことで進めたい。このことを進めるためには、分析に使用するPC等の機器の早期購入も進めて、授業記録作成や実践された授業の内容の確認等を早い時期に行う。
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