本研究の目的は、主に中等教育段階を想定する中で、学習者の内面において望ましい科学に対する見方・考え方(=科学観)を創り、科学との親和的な関係を構築していく理科授業の指針を得ることと、その指針に沿った授業を具体的に試行して、その効果と有用性を科学観の成立様態から検証することであった。最終年である平成29年度では、本研究の全体的な成果を、以下のように整理することで授業構築の指針としてまとめるに至った。① 科学観構築に向けて必要な理科授業デザインの指針に対して、ホドソン、D.が提唱する「科学について学ぶ」学習場面を実現することを基本の考え方として持つこと。② 授業デザインにおいては、「自分達の学習活動と科学者の活動を対応付けて考える『方法論的視点(アプローチ)』」と、「科学的知識の背景にある科学の性質や歴史等に触れる『内容論的視点(アプローチ)』」の科学像に迫る2つの学習場面が、有効な手だてになり得ること。③ 授業デザインの検証は、科学観の成立様態の点から評価すべきであり、「存在論」「認識論」「社会学」の3つの側面、さらに考え方の根拠にあたる「解釈のレパートリー」に注目する中で具体的かつ詳細に評価する必要があること。収集できた授業実践からは、2つの視点(アプローチ)として設定した学習場面を経験する中で、特に「認識論」の側面を自らの科学観の構成要素として取り入れながら、より具体的かつ鮮明に科学を捉えるようになったことが確認出来た。このことは、「経験主義的レパートリー」の増加という実態から確認出来た。また、3カ年の生徒の経年変化の結果としても、「認識論」に大きな変容が見られることが明らかになった。残された課題としては、学習内容固有の要因があって一律に科学観を変容させることが難しいことと、「存在論」を十分に改善するには至らなかったことがあげられるであろう。
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