最終年度の平成30年度は、次の2課題、1.読み手主体に働きかける課題:「最も心に残ったところを教えてください」=「印象報告課題」、2.強制的な課題:「あらすじを教えてください」=「あらすじ報告課題」と、コントロール課題の読み手の自由に任せる課題:「自由に読んでください」=「自由課題」の3つの課題下で物語を読んでいる時の脳活動の差異の有無を調べる目的で、11歳の児童2名の追加実験を実施し、児童被験者総数8名の実験結果の分析を行った。また、日本国語教育学会の学会誌『月刊国語教育研究』(2018年8月号)に「物語を読んでいる時の脳活動の実際―二つの課題下でのFMRI実験の結果を通して―」の論文が掲載されるとともに、第135回全国大学国語教育学会にて「物語を読むときの脳活動―イメージしにくい説明的な文章を読むときの脳活動とのちがいを通して―」の題目で研究発表を行った。 児童8名の解析の結果、「印象報告課題」と「あらすじ報告課題」の下で物語を読んでいる時の脳活動に顕著な違いは見られなかったが、物語の内容によってより活動する部位があるという傾向が見られた。すなわち、登場人物の空間移動が大きい物語を読んでいる時に前運動野や補足運動野の部位がより活動するという傾向を見て取ることができた。 以上、本研究期間全体を通じて、以下の3点の成果が得られた。1.大学生の実験において、「印象報告課題」下で読んだ物語の方が「あらすじ報告課題」下で読んだ物語よりも二週間後のストーリーの再現率が高いとう結果が得られた。2.大学生の実験において、物語を読んでいる時にデフォルトモードネットワークの部位とよく似ている部位が活動しており、「物語を読むことは社会脳の発達につながる」ことが示唆された。3.児童の実験において、空間移動の大きい物語を読んでいる時に前運動野や補足運動野がより活動しているという結果が得られた。
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