本研究の主な目的は,学校教育の現場で使用される教科書において「表現の工夫」とされる項目(その中でも本研究では特に比喩表現に着目した)の使用状況に関する調査と,子どもたちの言語習得や言語の使用状況の調査を行い,両者の対応関係を探ることにあった. まず,教科書における「表現の工夫(比喩表現)」の使用状況調査を,瀬戸賢一編(2007)『英語多義ネットワーク辞典』(小学館)において提示されている比喩の分類に基づいて行った.その結果,教科書における比喩表現は学年が上がるにつれて,具体的な事物を用いて例える表現から抽象的な事物を用いて例える表現へと推移していることを明らかにした. 一方,子どもたちの言語習得・言語使用の状況の調査の結果,特に幼少期の子どもたちの言語使用(特に動詞)において多くの場合,その表現の発話にその発話が表す動作そのものが伴うことを指摘した(例えば,「飛ぶ」であれば,「飛ぶ」という動詞の発話と共に,実際に「飛ぶ(ジャンプする)」動作も伴う).このことは,子どもたちにとって言葉とは,自身が実演したり目にすることができる,つまり,具体的な事物・行為を表すものであることを意味していると言える.これはつまり,幼児の言語使用は具体的であることを指摘したことになる.これは,上記の教科書の語彙の推移と子どもの言語使用とが一致していることを意味する.よって,教科書における「表現の工夫」と子どもたちの実際の言語使用状況の内実とは概ね一致していると言って良いという結論に至った. ただし,上記からも明らかなように,今回の分析は「表現の工夫」に限定されたものであり,それよりも頻繁に使用される(比喩ではない)通常の語彙の使用状況の調査等は今後の課題として残されることになった.
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