研究実績の概要 |
研究の最終年度である2019年度は,日本と韓国の教員養成に焦点を当てて研究を行った。愛知教育大学の学生と晋州教育大学校の学生が共に学び,市民性を深める共通教材を作成することを目的とした。教材化にあたっては,実際に日韓の教員養成の学生が共に学べるように考慮して,日本と韓国の教育問題を取り上げた。日韓両国で問題となっている「いじめ」と「塾」に焦点をあて,それぞれの国の現状や社会的背景,共通点と相違点について明らかにしながら,教材化を試みた。また,この共通教材を活用して,日韓の教員養成の学生が共に相互理解を深めながら,市民的資質を育成する日韓交流プログラムを開発した。 さらに,韓国の高校生を対象に「世界市民」について授業を行い,日韓両国の高校生が共に学ぶことができる共通教材の可能性を探った。本研究では,代表的な世界市民として,スウェーデンの高校生で環境問題の活動家グレタ・トゥーンベリさんとローマカトリック教会のフランシスコ教皇,アフガニスタンで医師として診療を行うとともに,井戸を掘り,用水を引き,アフガニスタンに緑をもたらした中村哲さんを取り上げた。 本研究の意義は,3つある。第1に,日韓の教員養成の学生が,共通教材を活用して,教育問題について学び合うことで,同じ教育の問題でも,異なる観点からの問題解決が可能になることに気付き,相互理解が深まることを明らかにした点である。第2に,共通教材を作成する際には,学生の問題意識や興味関心を考慮してテーマを設定し,相手への問いかけや根拠となるデータを提示することにより,問題を掘り下げて考えられるようになることを明らかにした。第3に,世界市民という広い視野から普遍的価値を追求することで,日韓の歴史認識問題や外交問題で関係性が悪くなった時でも,対話の糸口をつかめることを明らかにした。
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