平成29年度は、小集団による読書プログラムの検討を行うと共に読解力向上効果の検証を行い、成果の公表を行った。 まず小集団による読書プログラムによって育まれる学力について、コンピテンシーの観点から検討を行った。国際的な新しい学力観を調査すると共に、日本の教育行政におけるコンピテンシー概念の検討の経過を調査した。その上で新しい学習指導要領における学力が読書プログラムにおいてどのように育まれるかについて考察した。 次に本学附属学校において実践された高等学校の「こころ」(夏目漱石)および中学校の「オツベルと象」(宮沢賢治)を教材とした授業における読解力向上効果の検証を行った。いずれも学習者の主体的な活動を軸とした授業であり、ポートフォリオや学力テストの結果を基に考察した。読むことの授業では解釈を導くだけでなく、その「わけ」が重視される。教師に導かれるだけでなく、学習者自らが思考力を働かせて考えを組み立てていくことによって、主体的で深い学びが実現することが明らかになった。 そして研究の成果を全国大学国語教育学会においてシンポジウムとして口頭発表した。その内容をまとめ雑誌『国語科教育』に発表した。また京都教育大学国文学会の『国文学会誌』においても研究成果を発表した。 今後の研究の課題として、文学の読書の学習における「公共性」を教室でどのように実現するのかという問題が見えてきた。I(わたし)とYOU(あなた)とで完結しやすい教室の学習において、THEY(この場にはいない他者)となる存在をどのように学習者と出会わせていくのか。コンピテンシーが内包する社会性の部分を切り離してしまうと従来の習得と活用のモデルに収束してしまうことから、特に読むことの私的な領域に近い文学の授業でどのような形が考えられるのか検討していく必要があることがわかった。
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