研究課題/領域番号 |
15K04431
|
研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
原田 智仁 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (90228651)
|
研究分担者 |
二井 正浩 国立教育政策研究所, その他部局等, 研究員 (20353378)
田中 伸 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70508465)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 歴史教育 / エンパシー / 共感とケア / 歴史の指導と評価 |
研究実績の概要 |
研究課題の中核をなす歴史的エンパシーについて、英米の主要な文献、特にロンドン大学のS.フォスター教授とケンタッキー大学のL.レブスティック教授の論攷を中心に整理するとともに、米国プライマリ・ソースのD.カニンガム博士にインタビューすることによって、一定の時代的文脈の中で他者の見方(パースペクティブ)を明らかにする認知的側面と、他者の行為や状況に気をくだく(ケアリング)情意的側面の双方から理解すべきことを確認できた。 また、9月には米国のマサチューセッツ州の学校を複数訪問し、過去に州の優秀歴史教師賞の受賞経験のある教師の授業を観察し、エンパシーについての意見交換を行った。その結果、いわゆる一次史料等の読解と相互の議論に基づく生徒主体の歴史探究型授業(doing history)こそが、過去の文脈下で複数の異なる意見に触れることを可能にすること、また学習主題の選択に際しては何らかのディレンマ状況にあった人物や事件を取り上げると効果的なことが明らかになった。 これらと並行し、現在中教審分科会で次期学習指導要領改訂の方向性として議論されている資質・能力の育成に関わって、歴史固有のリテラシーの一環にエンパシーを位置づけることの有効性を見出した。その成果の一部は、全国社会科教育学会の第64回全国研究大会(広島大学、2015年10月)のシンポジウムで「今、教科教育学の存在理由が問われている」と題して発表した。そこでは、1930年代の英国首相チェンバレンの対独宥和政策を事例にして、求められる資質・能力を歴史固有のリテラシーの文脈で捉え直し、エンパシーを位置づける方法を提示して、一定の評価を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、1年次の目的に掲げた米国訪問を実行し、歴史的エンパシー研究の第一人者ともいうべきD.カニンガム博士に面会して聴き取りができたこと、また歴史的エンパシーを実践する米国の歴史教師の授業を観察し、意見交換し資料も収集できたことである。 第二に、上記と並行して文献研究を進めた結果、歴史的エンパシーが認知面と情意面からなることを明らかにできたことである。もともと、日本では情意的側面、米英等では認知的側面が重視されていたが、双方を適切に関連付けて初めて歴史的思考と理解が一体的に形成されることが改めて確認できた。 ただし、認知面と情意面の関係を単なる相互作用ないしスパイラルといった抽象的なレベルでしか捉え切れていないことが課題である。これについては、更なる文献研究や調査研究を踏まえ、具体的な歴史の学習指導モデルを通じて説明することが今後に残された課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
外国調査・資料収集については、研究分担者と手分けして米英両国での聴き取りや授業観察・資料調査を今年度中に完了させる。また、収集した資料等については年度内に分析を済ませ、歴史的エンパシーの観点からの学習指導モデルを構築する。これが第2年次の研究計画である。 来年度は最終年度になるため、まだ十分検討していない評価の原理と方法を明らかにするとともに、それらを踏まえて今年度までに確立した学習指導モデルとともに、全国レベルの学会等で公表し、諸氏の批判を仰ぐとともに、積極的に学会誌や商業誌等に投稿するなどして、成果の普及に努める。 全体を通じて、研究分担者との連携を密にしながら、所期の目的を達成する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入費が予測した額より安く入荷できたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
必要な消耗品等を早めに購入することで、適切に研究遂行に生かす予定である。
|