| 研究課題/領域番号 |
15K04437
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| 研究機関 | 島根大学 |
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研究代表者 |
橋爪 一治 島根大学, 教育学部, 教授 (70709740)
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| 研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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| キーワード | 木材加工 / 切断技能 / 生体情報 / 技能者養成 / 指導法 |
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| 研究実績の概要 |
本研究の目的は，伝統建築等を支える匠の技のモデル化とその指導法の確立である。このため，まず，現代の名工と呼ばれる技能者の木材切断技能の巧緻性の解明に取り組んできた。つまり，熟練者は，「どこを見て，いつ，どこに，どれだけの力を入れて道具を操るのか」ということを，熟練者の身体の動きとその結果操られる道具の振る舞いに分け，作業中の熟練者が，どの部位をどのように動かしているのかを，定量的に明らかにすることに取り組んできた。具体的には，体の動きとして，視線，上肢の筋肉の使い方，手指１本１本の力の入れ方と，道具の動き（速度や加速度，運動方向等）の２側面から定量的に解明する方針をたて，日本を代表する宮大工師等の協力を得，これらの生体情報を収集した。現時点では，このすべてを収集し解明終了の段階ではないが，視線や指1本1本の動きなどを明らかにした。
これまで，木材切断技能は徒弟制度の下で長い年月をかけ獲得せざるを得なかった。現在，我が国において，熟練者の高齢化等でこの仕組みがうまく機能しなくなり，技能訓練施設等において，誰もが一定期間で確実に技能を習得できる仕組みが求められるようになった。本研究では，指導者が，単に「（演示等を手本に）この道具はこう使います，やってみなさい」としていた指示を，「ここをみて，このタイミングでここに力を入れ，これだけの速さで動かしなさい」という具体的な指示に変えることできる。このため，徒弟制度に頼っていた技の習得が，教育現場の合理的な指導で効果的に実現できる。
さらに，本研究が達成されれば，他の工程（切削や組立など）や木材加工以外の技能の巧緻性についても同様の手法で解明する道筋が開ける。これは，ものづくり立国日本の，あらゆるものづくりに関する卓越した伝統の技が，科学的根拠を持って合理的・効率的に養成できることにつながる。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は，伝統建築等を支える匠の技のモデル化とその指導法の確立である。さまざまな要因により徒弟制度が成立しない現在，工業高校や訓練施設等で高度な木材加工の技能が一定期間内に確実に身につく指導法を確立し，教育によって合理的に技能者を育成する仕組みの強化が求められる。
このため，研究の第1段階として，現代の名工と呼ばれる技能者の木材切断技能の巧緻性をモデル化に着手した。つまり，熟練者は，「どこを見て，いつ，どこに，どれだけの力を入れて道具を操るのか」ということを，熟練者の身体の動きとその結果操られる道具の振る舞いに分け，作業中の熟練者が，どの部位をどのように動かしているのかを定量的に示す匠の技のモデル化に取り組んだ。
当該年度は，研究初年次として，まず，研究の方針及び方法を，連携研究者と協議するなどして，研究計画を確立した。この研究計画により，必要な計測機器，材料等の物品の購入を行った。併せて，被験者の確保を行った。その結果，視線計測装置等の機器を購入し，必要な研究環境を整えた。さらに，これまで，日本を代表する宮大工師及び日本に１校しかない工業高校建築科伝統建築コースに学ぶ高校生を被験者として確保した。その後，これらの被験者に対し，手工具（のこぎり）による木材切断時の指１本１本の筋力，切断時にどこを見ているかという視線の記録，上肢の筋肉の使い方の記録を行った。併せて切断手工具（両刃のこぎり）に加速度センサーを取り付け，作業時の道具の動きを記録した。その結果，熟練者が，どこを見て木材を切断しているのかということが明らかとなるなど，巧緻モデルが解明されつつある。併せて，巧緻モデルを指導に生かす指導法の開発が進行中である。
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| 今後の研究の推進方策 |
これまでに，優れた匠の技を持つ熟練者を被験者として，木材切断中のさまざまな生体情報を計測していくパターンが軌道に乗った。同時に工業高校建築科伝統建築コースの生徒に対しても，同様の計測を行っている。これらの計測をさらに続け，それぞれのデータを解析し，巧緻モデルを確立することが第一の目標となる。そこで，当面は，この目標に向かって，継続的に被験者の元へ足を運び計測を実施とデータ分析が中心となる。同時に，初学者との違いを明らかにするため，初学者を被験者とした計測を行う。また，新たに被験者について検討し，宮大工師以外に，細かな木材加工作業に優れた技能を持つ指物師の熟練者に協力が得られたため，その計測も開始する。
これらの測定で得られたデータから，早い段階で，熟練者の巧緻モデルを確立し，熟練者は「どこを見て，いつ，どこに，どれだけの力を入れて道具を操るのか」ということを定量的に明らかにする。
また，日本を代表する宮大工師の切断技能を評価するため，非常に正確だとみえる切断面について，その切断面の精度を客観的に表す定量的な測定法を開発すべきだと考えた。そこで，現在，定量測定法について検討し，試行を行っている。この方法を用いれば，切り出される切断面の精度が高くなったか否かを，微細な精度で客観的に把握することができるため，初学者が，体の動きを熟練者に似せることが目的でなく，本来の目的である一定期間で一定の技能を身につけたか否かを確認することが可能となる。
巧緻モデル確立後，得られたモデルを，初学者にとってわかりやすい説明や訓練課題等に変換し，一定期間で木材切断技能の習得・継承が可能となる指導法を開発するとともに，定量測定法を元に評価を行い指導法の効果を検証する。
その後，学習者に対する定期的な技能評価から，技能獲得過程を解明し，さらなる有効な指導法を検討する。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
本研究は，被験者を，日本でも有数の技能を持つ熟練者としており，その確保を全国規模で行い計測を実施している。当然，被験者には定職等があり，被験者として時間を確保する日程調整が難航することがあった。このため，計測スケジュールが折り合わず，被験者の元へ出かける旅費等が予定より少なくなり，未使用額が発生した。
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| 次年度使用額の使用計画 |
対象となる被験者への計測について，詳細にスケジュール調整し，過年度分の測定を本年度の早い段階に行い，計画的に予算を消化する。また，すでに，新たな被験者を確保しており，そちらでの計測も開始し，計測の機会を増す。
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