本研究の目的は、美術科教育と特別支援教育の複合領域を創設すること、そして国内外の研究者や実践者が本分野にアクセスしやすい研究・実践基盤を整備することである。 最終年度の成果は次の通りである。1)質問紙調査の再分析を行い、教員が感じる指導困難事項に焦点をあて、25項目の質問内容の因子分析と多重比較を行った。その結果、教員が所属する学部、教員の特別支援学校教員歴、及び所有免許状の違いにより、美術指導の困難さを感じる内容が異なることが分かった。2)韓国大邸市で開催されたInSEA World Congress 2017にて、我が国の特別支援学校の美術の実施実態に関する全国調査に関する口頭発表を行った。 本研究期間全体を通じて実施した研究の成果は次の3点である。1)重度・重複障害児のQOLを高める造形活動の指導理論を、「確定的実態の把握」、「題材開発」、「授業実践」、「評価」、「変動的実態の把握」、「授業改善」の6項目で体系化した。2)全国の特別支援学校の各学部に所属する美術の主任教員を対象にした質問紙調査では、配布した2909名のうち、821名から回答があった。そのうち不備がなかった508名分を分析した結果、全国の特別支援学校(学部)の99.2%で美術の授業が実施されており、授業は週に平均1.8コマ、単位時間の平均は48分であった。しかし、学生時代に障害のある子供達を対象にした美術の授業を受けていたかどうかを問う質問では「全く受けていない」と「ほとんど受けていない」の合計が90%であった。3)リサーチ・メソッドの整理・検討に関する研究では、実践知・暗黙知の探究においてエスノメソドロジーやM-GTAを用いた質的研究を、実施実態の把握において質問紙調査法を用いた量的研究を、そして、仮説検証においてアクション・リサーチによるミックス法を用いたことを、研究目的と対応させて示した。
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