本研究の最終的な目的は,小学校算数から中学校数学への移行過程を明らかにし,それらの接続を円滑にすることである。本研究では特に,小学校中学年における算術から代数への移行教材の開発とそれを用いた実験授業,それらの授業の質的分析をとおして,その移行過程の一端を明らかにすることを目的としている。平成29年度は,共同研究者との会議を3回行い,昨年度に実施した第4学年の実験授業の分析と,これまでの成果を総合的に検討した。 1回目の会議では,平成28年度に実施した第4学年「計算のきまり」の実験授業を分析した。実験授業のデータに基づき,その授業における児童の認識の変容と教材の効果について議論した。「計算のきまり」の単元は,教師主導の単調な授業になりがちであるが,われわれの開発した教材によって児童が主体的に授業に取り組む姿を確認することができた。また,□などの記号の意味の理解が深まったことや,文字式利用のサイクルに基づいた活動が重要であることが明らかになった。そして,その分析結果をまとめた論文を学部紀要に投稿した。 2回目と3回目の会議では,これまでの研究を総括するべく,これまでに同定された代数的推論について質的及び理論的に検討した。質的にはKJ法を用いることで,主に授業における役割という観点で分類を行うことができた。また,理論的にはKieranの分類の枠組み(思考の様相)を用いて,その修正を加えながら分類を試みた。そして,これらの二つの観点によって代数的推論を捉える枠組みを検討した。
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