研究課題/領域番号 |
15K04455
|
研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
金子 浩一 宮城大学, 事業構想学部, 准教授 (10367419)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 中学校社会科 / 公民的分野 / 経済分野 / 模擬取引 |
研究実績の概要 |
本研究の一年目にあたる平成27年度には,まず中学校社会科の教科書や資料集を用いて,公民的分野の経済分野について文献調査を行った。「需要曲線と供給曲線」の図解については,すべての教科書で記載されるようになっていた。また,これまでに記載のなかった「労働生産性の図解」や「預金の通貨創造」などが新たに解説されている教科書も確認された(後者については,平成28年度の再改訂後の教科書では記載されなくなることも把握できた)。「比較生産費説」に関しては,相互に得意な分野に特化する国際分業の利点以外に,絶対優位の概念まで解説するケースもあった。新出の項目は標準的な教授法が確立していなく,双方向的な授業や生徒間の模擬取引など適切な手法の開発が必要になってくる。 中学の公民担当教諭へのインタビュー調査では,教えにくい分野や生徒にとってわかりにくい分野などについて確認した。国際経済分野がその一つであったが,学習指導要領では明示されていない項目であるものの,貿易に関する内容はどの教科書でも記載されているといった複雑な背景もある。高校公民で扱われる内容に比べると平易であるため,高校での教授法をそのまま用いにくい点も教えにくさにつながっている。 これらの内容を踏まえ,「比較生産費説」と「需要と供給」に関する教授法について考案した。前者においては,中学生が比較優位のみならず絶対優位の本質も理解できる模擬取引となるよう検討した。後者においては,教科書の図解で供給曲線が右上がりで描かれるのはなぜかについて,生徒が企業の立場になり,(大学で学習する限界費用などの微分演算ではなく)簡単な費用概念を用いて検討できるようにした。 これらの研究成果の一部は,平成27年度の日本公民教育学会と経済教育学会とで口頭発表している。高校公民科目・経済分野との関係や模擬取引の実践上の注意などについて報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,中学校の社会科・公民的分野の教科書や資料集をもとに文献調査を行った。その後,中学教諭への聞き取り調査を行い,教えにくい項目について議論しつつ,生徒が模擬取引できるような教授法の開発に取り組んだ。 教科書の記載では,需要・供給曲線がすべての教科書で図解されるようになったものの,その形状の説明の記載はさまざまであった。特に,供給曲線が右上がりになる要因(価格が上昇すると企業が供給量を増やそうとする状況)について,厳密に説明されていないケースが多いことも確認された。 教授法の開発では,比較生産費説について模擬取引を通じて理解する手法を考案した。高校公民では数値表をもとに貿易後の改善例が示されるが,その数値表を利用せずに中学生が理解できるように工夫した。手法としては,二人の生徒にA国とB国の役割をそれぞれ課す。そして,製品Cと製品Dの生産可能性を表現するカードを両者に数枚配布する。そのカードの両面には,各製品の生産可能な単位を記述し,表裏いずれかの選択を行う。 実際の取引では,貿易前後の状況を比較できるように展開していく。最初は,両国で交易できず,自国だけで生産を行う(それが消費となる)と仮定し,消費の状態がどうなるか考察する。次に,両国で交易することを前提とし,どのように生産しどのように交換するかを検討させれば,最終的な消費の状態が改善されたことを確認することができる。比較優位を単純に理解するモデルと,絶対優位まで理解するモデルと,二種類検討した。 なお,平成28年度には新課程での教科書が再改訂されるが,事前にすべての見本本を確認することができなかったため,平成27年度の文献調査やインタビュー調査を当初計画より抑制した。その分予定より進捗が遅れているが,平成28年度に改めて文献調査を行って学習内容の変化を確認し,インタビュー調査やさらなる教授法の開発を進める予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度刊行の再改訂後の教科書や資料集について調査し,新たな学習内容や説明の変化について確認する。抽象的な説明にとどまっている点,図解を添えることで理解が促進される点などを抽出し,適切な解説法・教授法について検討していく。 これらの内容のうち,可視化できる教授法については,パワーポイントで図解したり,模擬取引の動画ファイルを作成したりする。研究補助の大学生による実演を試しながら,実践上の問題や必要な時間も把握していく。そして,中学教諭へのインタビュー調査の際にその教授法の確認を依頼する。研究代表者の検討案の模擬取引は大学生が試行しているため,中学校の授業で実践する際の課題についても聞き取るようにする。そのコメントをもとに教授法をさらに改善していく。 そして,中学校の公民担当教諭へのアンケート調査では,教えにくい分野を明確にしていく。教えにくい要因については,「教科書内容が簡潔すぎる」「授業時間が足りない」「具体例が乏しい」「図解の方法が見当たらない」などの選択肢を用意し,改善策を検討する。 また,事前に研究代表者が考案した模擬取引事例の動画について,アンケート回答者がウェブ上で閲覧できるようにする。その内容を閲覧した回答者からは,また改善点や課題などの指摘を受けるようにし,より適切な教授法を検討していく。実際に中学校の授業で実践されるケースがあれば,その結果などを具体的に収集していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の中学校の教科書は,今般の学習指導要領改訂後で最初の再改訂がなされた教材となる。ただし,平成27年度中には一部の教科書見本本しか確認できなかった。また正式な刊行の際には見本本からさらに修正がなされる可能性もある。これらの状況を勘案し,教授法に関する聞き取りなどは平成28年度の改訂された教科書に基づき行うのが適切であるため,平成27年度のインタビュー調査は予定より少なくし,次年度に実施するようにした。 平成28年度には再改訂後の教科書と関連する資料が刊行されるため,平成27年度には図書購入などを予定よりも少ない額に抑えた。それに伴い,教諭へのインタビュー調査についても,予定の一部を平成28年度に移行して実施することとした。再改訂後の新出項目を把握した上での聞き取りのほうが効果的であるためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
先述の通り,まずは物品購入で,平成28年度に再改訂される教科書や資料を用意していく。変更点などを確認したうえで,インタビュー調査を実施し,旅費や調査協力謝金を使用していく。 教授法の開発などに関しても,さらに多くの手法を考案し,中学の教諭が確認できるよう動画ファイルを作成する予定である。その際,容量の大きいパソコンを購入して,実践上の注意もわかるようなサイトを作成する予定である。また,当初から計画していた全国の公民担当の中学教諭へのアンケート調査も実施していく。郵送費のほか,発送・回収に携わる研究補助の学生謝金も利用していく。
|