研究課題/領域番号 |
15K04455
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研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
金子 浩一 宮城大学, 事業構想学群(部), 准教授 (10367419)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中学校社会科 / 公民的分野 / 経済分野 / 模擬取引 |
研究実績の概要 |
平成29年度には中学・高校における学習内容の実態の相違を確認し,平成30年度実施予定のアンケート調査の設問構成について検討した。また,模擬取引を試行し,実践上の注意点について確認した。 まず,過去に行った調査に基づき,中学校の社会科公民(平成26年度調査)と高等学校の公民(平成27年度調査)で重複する内容について,それぞれで実際にどこまで教えているかという観点から教授法の実態の相違を考察した。たとえば,GDP(国内総生産)については,中学・高校いずれにおいても9割以上の教員が説明している。しかしながら,「GDPが最終生産物(売上高)から中間投入費用を差し引いた付加価値から計算されること」について,高校では半数以上の教員が説明しているが,中学校ではほとんど説明されていない状況にあった。ただし,一部の中学公民の教科書では数値例を用いて説明されており,中学校においてもきちんと説明する手法を確立しなければならない。平成30年度のアンケート調査の一つでは,GDPの教授法について調べる予定である。教える際に数値例を用いているか否か,あるいはどのような数値例を用いているかを明らかにできる質問と回答選択肢について検討した。 模擬取引に関しては,貿易に関わる比較優位(比較生産費説)を理解する事例について,できるだけ平易な数字を用いるべきであることを聞き取り調査で指摘されていた。そのため,小数を用いず整数単位で,輸出入(交換)ができるような数値例について考案した。その中で,一部の公民の教科書で暗に言及されている絶対優位についても考察できるように工夫した。大学生による取引の実践例の動画も作成し,実践上の問題も把握した。 これらの成果の一部について,本年度は経済教育学会と日本公民教育学会で口頭発表している。また,『経済教育』に論文を投稿している(研究成果を参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
教授法の開発に関し,模擬取引の実践例の考案については順調に進んでいる。アンケート調査の質問の構成も進んでいるが,後述の理由により調査実施を平成30年度に延期したため,全体としてはやや遅れている。 模擬取引の事例について順調に精緻化でき,アンケート調査を実施する際にその実践方法を回答者に伝えることは可能な状況である。「比較優位」については先述の通りである。 また,「需要と供給」についても,売り手と買い手に分け仮想で物品を売買する取引を実施した。売り手についてはその仕入れコスト(売り手によって異なる)を明記した用紙を配布し,その仕入れコストよりも高く販売できた分が利潤となることを説明し,供給とは何かについて検討させる。教科書では費用との関連を説明することなく右上がりの形状の供給曲線が図示されることが多い。しかしながら,この手法により,「市場価格が下落するとなぜ供給量が減少するか」について直観的に解釈できるようになり,その結果として供給曲線が右上がりの形状で描かれることを理解できるようになる。 この模擬取引を始める前に,「価格が下落すると供給量は増えるか,それとも減るか」とクラス全体に質問し,集計しておくとさらにこの理解の度合いが強まることがわかった。漠然とこの質問を投げかけると,「増える」「減る」双方に適当に分散することが多いためである。そこから,どちらが正しいのか,なぜそうなのかを考えるプロセスが生じる。 アンケート調査の質問の構成については,すべての内容を扱えないため,どのように抑制するか考案した。教科書の説明内容が抽象的でわかりにくい分野を選定しつつ,模擬取引の実践例を有効活用できるように進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,アンケート調査の質問および回答選択肢を確定していく。先述のように分野は選定しているが,過去の小学校社会科,および高等学校公民科に関するアンケート調査をもとに,接続性を踏まえて中学校でどのように教えるべきかについて検討できるように整理していく。その後,実際に質問紙を中学校へ郵送し,回答を収集し,種々の分析を行っていく。たとえば,教え方の相違について,教職歴や使用教科書に基づくクロス分析を進める予定である。 模擬取引の事例についても,回答者が参照できるように動画ファイルを作成していく。上述のGDPの考え方については,複数の経済主体の役割を生徒が担う模擬取引を行うことで,付加価値と売上高の相違について可視的に理解できるはずである。このように,考案中であるが作成まで至っていない内容について,さらに教授法を検討していく。 これらの内容については,学会発表や論文投稿により公表していく。また,ウェブサイトでも掲載可能なものを公開していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に実施予定であったアンケート調査を,平成30年度に延期したためである。その主な理由は,平成28年度の教科書再改訂で大きな変化があったことにある。調査の整合性のためには,それ以前の教科書(学習指導要領改訂後の初版)を用いていた際の回答を排除しなければならない。また,サンプル数が少なくなる状況を回避しようとした。平成30年度に実施することで,平成29年度または平成28年度に公民を担当していた教員を対象にでき,回答対象者が多くなるためである。これらの理由によりアンケート調査の実施が延期され,次年度使用額が生じた。 アンケート調査を実施するために,残額の多くを使用することになる。発送から回収まで自前で行う予定であるため,学生SAへの謝金が必要である。また,封筒や郵送料金についても相応額がかかる予定である。模擬取引の動画ファイルを作成するため,保存用のハードディスクなども購入する。
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