本研究の目的は日本型算数科授業の特徴を歴史的視座から抽出し,算数科教育がこれまでどのような授業を目指してきたのかを歴史的アプローチによりとらえなおし,現代の授業研究における授業改善の議論の方向付けを明確化することである。これまでに,歴史的資料を素材としたインタビューにより算数科授業を熟知しているベテラン教師から授業構成の観点としての9項目を抽出し,前回調査と比較検討するために現代の算数科教科書を資料として同じベテラン教師2名を対象としてインタビュー調査を実施している。その過程で,算数科教師に内在する授業構成に関する教師経験の違いによる算数教育観の差異を考慮して検討する必要が生じた。新たに中堅教師2名を選び,歴史的資料と現代の資料の両方についてインタビューを追加実施した。今年度は歴史的資料をもとにした中堅教師2名のインタビューを分析した結果をベテラン教師2名のインタビュー結果と比較し,談話に現れる授業構成の項目と物語的一貫性について検討した結果,項目と内容には言語化の有無と内容に教師経験年数による差異が見られた。この結果は数学教育心理研究国際会議に投稿をした。現代の算数科教科書資料を用いて収集した算数科授業構成に関わる教師の談話については,子どもを通して自分の授業を語る教師独特の表現方法に着目して整理した。特に子どもの学習に関する発話に焦点を絞って分析検討した結果,子どもにさせる具体的な操作や活動での表現には段階的に数学化している意図を含んでおり,操作や表現は段階化の過程をふむことで子どもの視点を焦点化するように構想される傾向があった。算数科教師自身が認識している算数科授業構成についてすべての教師が言語化できるわけではないが,教師の授業構成に子どもの算数学習の態度形成を意図した過程が埋め込まれていることを示している。この結果は次年度6月の全国数学教育学会で発表の予定である。
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