本課題研究では、大正期の国語科文学教育の目的が修身的「教訓・訓戒」から「情操の涵養」に転換していった過程の解明(研究系列A)、またそれに応じる形でヘルバルト派教育学が示した五段教授法を範型とする教授法が教育実践の場に浸透・展開していった過程の解明(研究系列B)、更には、文学教材受容の際に重視された「想像」活動が小学校教育、幼児教育の分野に展開していた実相を実証的に明らかにすること(研究系列C)で、同教育学を基盤とした文学教育が大正期言語教育全般に与えた影響を検証し、日本人のメンタリティ形成に与えた影響等を明らかにするものである。 平成29年度、研究系列Aでは、「情操の涵養」を目指し文学読本とも言うべき「第三期国定読本」が教育実践の場から幅広く支持され、その延長線上に所謂「大正新教育」との接続が見られることが明らかになった。これは、大正7年の「臨時教育会議」における修身教育強化の方向とは異なるものであり、教育行政/教育実践の対立的構図が示された。そのような状況において、「読み」の主体(作者/読者)を巡る議論が生起し、読者の多様な「読み」を認める立場が、昭和期に入り一元的読みに収束していく様相を捉えることが出来た。 研究系列Bでは、ヘルバルト派教育学の五段階教授法を範型とする教育方法が、三段教授法に簡略化され、教育実践の場に浸透するとともに、それらが「大正新教育」に与えた影響について、奈良教育界を中心に教授法の変遷について調査を行った。 研究系列Cでは、教育における文学受容の際の「想像」の在り方に焦点を当て、共時的、通時的観点から広くその実相を捉えるため、当時の小学校教案、幼稚園教案、教育雑誌等に示される文学教材に関する記事等に対する調査を行った。その結果、幼児教育においても、想像性と教訓性を対立的に捉える構造が大正期に強まっていることが明らかとなった。
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