本研究計画は落ちにくい汚れである土に着目し、土を利用した環境負荷の少ない洗濯・染色教材の開発を提案する。土粒子が布に付着・脱落する現象について、水・機械力・土・布の組成や構造から物理化学的な分析・解明を進め、土を落とす洗濯条件と、土で染める染色条件の両者の確立を目指し、次の八つの研究項目を立てた:(1)布に対する土粒子の脱落・付着を促進する処理条件の影響の検討、(2)布に対する脱落・付着を促進する土粒子の組成と形態の影響の検討、(3)土粒子の脱落・付着を促進する繊維の組成と構造の影響の検討、(4)土粒子の脱落・付着を促進する布の構造の影響の検討、(5)土粒子の脱落を促進する諸条件の解明および最適洗濯条件の決定、(6)土粒子の付着を促進する諸条件の解明および最適染色条件の決定、(7)小中高を対象とした家庭科洗濯および染色学習の実験・実習教材の提案、(8)小中高における提案教材の授業実践と改善:以上である。 H30年度は、(2)(3)(4)に関するゼータ電位を明らかにできたことが、大きな成果であった。一般的に水中で物質表面は負に帯電するが、実測可能な表面電位をゼータ電位という。その電荷が大きいほど物質間の電気的反発力も大きくなると考えられるため、土粒子と布のゼータ電位を測定した。その結果、布のゼータ電位はキュプラ、ナイロン、絹、マーセル化綿、JIS綿、未マーセル化綿、PETの順に負の電荷が大きくなり、PETのゼータ電位は-22mV、他の布は-11mV以下であった。しかしながら、このゼータ電位の順位は、各布をRouge土顔料粒子で染色処理した場合の付着挙動とは、必ずしも一致しなかった。したがって今回の実験条件下では、土粒子の脱着現象にはゼータ電位だけでなく、親水性・疎水性といった繊維の性質や、繊維側面や断面の形状、糸の太さや織密度等が大きく影響していると考察された。
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