本研究の課題としての「参加プログラム開発」のポイントは、異なる国や地域との間の交流を前提とした場合の交流の観点と交流の方法についての提示である。それらが自らの論語読書の幅を広げ、また理解の深度や広がりの起点となることが期待されるからである。今年度はそのような意図に即して収集した日本、中国、台湾の中学校3年生の作品を文集のかたちで刊行できた。そしてそれらに基づき、相互に関連し合う(1)選択された章句、(2)理解の様式、そして(3)類比される素材の三点に即して検討を加えた。(1)については結果として、共通テクストとして提示した8編の章句の中で選択されたものとしては⑧(過而不改~)が比較的多く、①(学而時習之~)と⑤(剛毅木訥~)が比較的少なかった。これらについては今後、それぞれの作品や指導の在り方などとあわせて検討していくことが必要となる。(2)は論語を生活や社会にあてはめてみるための具体的な方法である。ここでは佐々政一の枠組みに依拠しつつ、叙事文、説明文、議論文に分類した。作品収集に際して書き方についの指導を先行させることは求めていない。したがって生徒たちが最もなじんだ書き方に即して書かれたものがこれらの様式だとするならば、見出すことができるのは選択された様式による国や地域における標準的な様式である。(3)は理解の様式と関連するものである。すなわち説明文型の場合は選択された実例、議論文の場合は選択された問題の場とそれを支える事実、そして叙事文型の場合は選択された場面と事件、問題状況などがそれに相当する。これらに着目してみたならば、それぞれの作品にはいくつもの共通点が指摘できる一方で、同一国内では思いもよらない差異を見出すこともできた。今後はこれらを整理することによって交流の方法がより鮮明になることが期待される。
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