研究課題/領域番号 |
15K04493
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
太田 剛 静岡大学, 情報学部, 教授 (40213730)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教育学 / 情報科学 / プログラミング教育 |
研究実績の概要 |
2年目の計画は1.前年度同様の事例収集、2.前年度収集した記述データと行動履歴データの分析、の2点を行うことであった。 2人の学生をペアにして実施したトレーニングにおいて、事例収集としては次の5点を収集した。1.学生には何の示唆も与えない状況のもとで、ある形状のものを描くための日本語記述文章を書き起こした第1版記述、2.その記述を相手が読んで実施したときに描かれたもの、3.描かれたものを見て、何を誤読されたか考えて修正した第2版記述、4.第2版を相手(2.と同一人物)が読んで実施したときに描かれたもの、5.その結果をみて修正した第3版記述である。また、プログラミング行動履歴については、既存システムを用いて、「プログラミング」の授業における学生の行動を収集した。 両データを分析した結果、個々のペアにおいては、版を重ねることによって記述の改善は見られるものの、改善の度合いはペア相手の「賢さ」に左右されてしまう傾向が見られた。「記述されたものをどう解釈・評価して形状を描くか」に関しては、各学生の解釈のしかたがペア相手に対する影響力を大きく異なるものとしている。例えば、「記述した学生が意図しているであろう解釈」とは敢えて異なる解釈を行うことで、記述の不具合を相手に的確に通知することができる学生がいる一方で、記述漏れに対して――意図的になのか、深く考えずになのか分析不可能だが――、「記述していないにも関わらず一般常識や正解知識を持ち込んだ適切な補い」をやってしまう学生もいる。後者は、「プログラミング」の特徴を考えた場合、指導する教員としては、決してやって欲しくない行動である。 以上のことから、2人ペアによるトレーニングでも効果は得られるが限定的であり、一定の解釈・評価基準を持ち、記述漏れを勝手に補わない「賢い相手」の存在が強く望まれることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた1.記述事例、誤読・誤解事例、誤り分類、2.プログラミング時の学生の行動、の2種のデータ収集は予定通りに実施できた。また、これらのデータ分析を行い、次のことがわかってきた。 作年度末、「誤り易い箇所」で記述に苦労した学生、「誤読され易い表現」を安易に使う傾向のある学生が、プログラミング時の行動履歴に特徴を持つのではないかと詳細に検討することを計画し、今年度実施した。特に、第1版では同じ箇所で似た記述をしていた2名の学生が、ペア相手の誤読状況を見て修正した第2版では、記述方法が大きく異なっている場合があることに注目した。分析の結果、「そのような2名は、実際のプログラミング行動(デバッグ時)に特徴的な違いが生じているのではないか」という作年度末の予想は、データ上でははっきりとは見られなかった。それよりも、「多義的解釈可能な記述に対して、相手の意図をはずすことのできる賢さを、ペア相手が持っているか否か」のほうが、大きく影響していた。つまり、ペアを組んだ相手がたまたま「賢い」人であれば、自分の記述の危うさを認識できてその後の(プログラミングにおける)行動が変わるかもしれないのだが、そうでなければ、まぁこのくらいでいいかで済ませてしまって問題点を認識できないままにプログラミング学習に進んで苦労してしまうかもしれない。 これらのことから、一定の解釈・評価基準を持ち、記述漏れを勝手に補わない「賢いペア相手」の存在が強く望まれることがわかった。逆に言えば、このような「賢いペア相手」が一定数以上存在しなければ、このトレーニング法の効果を統計学的に扱うことができないということでもある。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、これまでと同様に、1.同様の事例収集、2.収集した記述データと行動履歴データの分析、に加えて、3.「賢いペア相手」となり得るような、簡易自然言語処理を用いた応答システムのプロトタイプ作成を行う。 1.と2.はこれまで同様なので詳細は割愛し、3.について詳しく述べる。 「一定の解釈・評価基準を持ち、記述漏れを勝手に補わない」「多義的解釈可能な記述に対して、相手の意図をはずすことのできる」賢いペア相手の必要性について、これまでに述べてきた。また、これまでの事例収集から、「誤り易い箇所」「誤読され易い表現」についても多くの事例と分類ができている。これらのことから、ある特定の形状(本研究では、漢字の「本」の字を対象としている)を描くことを想定する限り、本格的な自然言語処理を行わずとも、単語列のパターンマッチングの範囲内で、記述内容を解釈して形状を描くことのできるシステムを開発できそうだという感触を得た。もし仮にこのようなシステムが実現できれば、能力にばらつきのない一定の能力を持った相手とペアを組ませることが、全学生に対してできるようになり、本研究が提案するトレーニングの効果を客観的に評価できる環境が整うことになる。 前年度末には、どのようなことに注意して記述する必要があるか、どう書くと誤読され易いかを記述したガイドラインを作成することを計画していた。しかしながら、上記プロトタイプが実現できそうなので、これが実現できればガイドライン自体が不要になる。そこで、ガイドライン作成および、ガイドラインを示した学生と示さなかった学生との、その後の行動の違いについての調査は中止する。
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