本研究の目的は,アメリカの作曲家ジョン・ゾーン(John Zorn)が考案した集団即興演奏のための方法《コブラ(Cobra)》の構造を手がかりに,小学校音楽科における,児童一人ひとりの持つ表現の多様性を活かすことのできる即興的表現活動のための教材を開発することである。 平成29年度は,本研究計画3年のうちの最終年度である。 理論的研究については,《コブラ》の演奏行為に内在する〈ゲーム〉としての特質を考察した論文を,日本音楽表現学会の学会誌『音楽表現学』で発表した。この成果は,本研究における教材開発の発想を得るための手がかりとなった。 実践的研究については,まず,前々年度(初年度)に開発した教材《ステージ(Stage)》を用いた授業を開発し,論文(甫出頼之との共著)として,広島大学教育学研究科紀要で発表した。この成果は,本研究によって開発された教材を,実際の授業でどのように活用するかについて,モデル指導案を示すことによって具体的に提案した点において意義があると考えられる。 次に,スマートフォンやタブレット端末の通信機能を使用して,聴衆の立場にある児童がステージ上の即興演奏に介入することのできる教材《サンカプレイ(Sanka Play)》を開発した。開発に先立ち,前年度に行った日本音楽即興学会の大会におけるパフォーマンス発表を振り返り,「聴衆の演奏への介入」がその場に居合わせる人々にどのような状況をもたらすかを考察した。その成果は,今年度末に,同学会の学会誌『JASMIMジャーナル』に論文として発表した。開発された《サンカプレイ》は,誰でも活用することができるよう,ダウンロード可能なウェブサイトを作成し,公開した。併せて,ノートルダム清心女子大学附属小学校第5学年を対象とした授業実践を行い,その成果を,日本音楽教育学会の大会において発表した。
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