研究課題/領域番号 |
15K04503
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
藤田 詠司 高知大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (60219003)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会科 / 公民科 / インドネシア / 教科書分析 / 授業観察 / 授業担当者インタビュー / 大学教育学部教員インタビュー |
研究実績の概要 |
インドネシア共和国2006年版学習指導要領に準拠した小中学校の社会科(IPS)・公民科(PKn)教科書を収集し,一部について分析を開始した。また,IPSおよびPKnの関連性等についての意識を探るため,小中学校の授業観察および担当教員へのインタビュー,大学教育学部教員へのインタビューを実施した。 ほとんどの教科書が,学習指導要領が示した目標のまとまりにしたがって章を設定していること,中学校IPSの1社は,教科書の名称どおり,歴史,地理,社会,経済の「統合」的章を設定していた。また,全ての教科書が,内容のまとまりを別にすると,ほぼ同じ構成(各章の本文のまえに,学習指導要領の目標の引用,それにもとづく章の「概念図」の提示,本文の後に,節末ないしは章末にまとめの提示,学期末・学年末の達成度確認問題の提示)で作成されていた。 南スマトラ州パレンバン市のパレンバン第179小学校およびパレンバン第10中学校を訪問し,IPSとPKnの授業をそれぞれ1時間ずつ参観し,担当教員に,授業構成の考え方や他方の教科との関連性等についてインタビューを行った。いずれの担当教員も両教科の類似性ないしは関連づけ可能性には気づいていたが,特に意識して関連をもたせてはいないようであった。同席した大学教員や校長・同僚が特に異論を述べていないことから,このような認識と対処は,特別なことではないと言える。 スリウィジャヤ大学教育学部のIPS担当教員とPKn教員に,両教科の関連性等についてインタビューを行った。両教科については,特に関連づけることなく別々の教科として扱い,教員養成も別々に行うべきという立場の大学と,両教科を関連づける必要があり,教員養成も統合的に行うべきという立場の大学がある。主流派は前者であり,中心的大学はインドネシア教育大学である。後者は少数派であり,スリウィジャヤ大学教育学部が代表的大学の1つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の具体的研究計画・方法は,1)教科書および関連書籍の収集,2)教科書および関連書籍の分析,である。1)については,小学校と中学校それぞれの社会科・公民科教科書,インドネシア教育に関する書籍を複数冊入手することができた。2)については,とくに入手済みの教科書全てについて,教科書におけるテーマとその配列をインドネシア2006年学習指導要領と照らし合わせ,さらに各章の主要要素を確認し,教科書構成の特徴を把握することができた。 また,当初の計画には盛り込んでいなかったが,教科書の実際の使われ方や,両教科の関連づけのされ方の実情を把握するために,公立の標準的な小中学校をそれぞれ1校訪問し,社会科と公民科の授業を1つずつ参観し,授業担当者に授業構成の考え方や社会科と公民科の関連づけ可能性と実際について意見聴取することができた。 また,大学教員へのインタビューの結果,インドネシア共和国独立以来,PKnは,名称を変えながらも独立教科であったこと,IPSは当初,歴史,地理,経済,社会等にわかれていたが,1975年のカリキュラム改訂時に,アメリカ社会科の影響を受けて,統合教科IPSとなったことがわかった。ただし,アメリカ社会科の影響があったにもかかわらず,なぜIPS関連諸教科とPKnが統合されなかったのかについて,インタビューでは明確な答えを見いだすことができず,新たに解明すべき課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
見収集の教科書を収集し,学習指導要領が示した目標のまとまりにしたがって章を設定しているかどうかを確認し,実際にはどのような学習対象ないしはテーマが各学年に配置されているかについて,教科書記述内容を分析・整理し,異なる出版社の教科書を比較検討する。これまでのところ,中学校IPSについては,学習指導要領準拠型と「統合」型があるが,それ以外のパターンもあるのかどうかを確認する。それらをふまえ,学習対象ないしはテーマ選択・配列のパターンとその原理を明らかにする。 収集済みの教科書全てが,各章の本文のまえに,学習指導要領の目標の引用,それにもとづく章の「概念図」の提示,本文の後に,節末ないしは章末にまとめの提示,学期末・学年末の達成度確認問題の提示という構成を採用している。そのため,引用された目標と章の構成,節末・章末のまとめの内容を総合的に分析することで,教科書での学習を通じて習得されることが期待される知識の種類と組合せを明らかに出来る。その作業をもとに,社会認識,社会参加の態度に関わる観念,あるべき社会の信念のうちのどのレベルの知識のまとまりを習得させようとしているかを析出し,単元の内容構成原理を明らかにする。 見収集の関連書籍を収集・分析し,小中社会科・公民科の内容構成原理と両教科連携の考え方を抽出し,教科書分析を補強する。これらのことをもとに,インドネシアの社会科と公民科がそれぞれどのような論理で内容構成を行い,相互にどのように補完し合っているか,そして,両教科がどのような道徳性ないしは価値判断力を育成し,相互にどのように補完し合っているかを明らかにする。さらに,それをもとに道徳・社会科の2教科型に移行しつつある日本における市民性教育カリキュラムのあり方を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額であるため適切な使途がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費の一部として有効に使用したい。
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