研究課題/領域番号 |
15K04503
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
藤田 詠司 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (60219003)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インドネシア / 市民性教育 / 社会科 / 公民科 / 道徳 / 歴史教育 |
研究実績の概要 |
インドネシア社会科および公民科の教科書分析を進めることと並行して,以下のことを検討・調査した。 道徳と社会科の2教科体制で市民性教育が行われる場合の歴史教育が担うべき役割について考察した。「歴史の流れ」が我々の生き方を客観的に指し示すとする伝統的な市民性教育歴史学習論を克服しうる新しい市民性教育歴史学習論として,規範反省歴史学習論と批判主義歴史学習論がある。前者は,現代社会の規範の成立とそれがもたらした社会秩序および社会問題の理解を目指す規範反省歴史学習を提唱している。後者は,規範の反省に留まらず,それを再度形成する歴史学習,さらには,規範だけではなく,個人が内面化している信念や,信念・規範が外化したものとしての政治的行為や制度を再形成の対象とする歴史学習を提唱している。問うべきは,この2つの歴史学習論を,実際の歴史学習にどのように組み込むべきかである。道徳と社会科の現在の性格に基づくなら,社会科歴史的分野に批判主義,道徳に規範反省を組み込むことが適切と言える。 日本およびインドネシアにおいて,相手国に関する認識や判断に,社会認識系教科による学習がどの程度反映されているかについて,両国学生を対象に調査した。インドネシアの学生は,太平洋戦争中に日本軍によってインドネシアが占領されたこと,そのなかでロームシャとして働かせられたことなど,3年半に渡る日本軍政の様子と国の独立の経緯についてよく記憶している。現在の国の成り立ちの経緯を社会科において歴史的な事実として学習すると同時に,建国の理念とその実現化としての現代政治組織を公民科において学び,しかもその学びが小学校と中学校で繰り返されるからである。社会科と公民科は,カリキュラム上,とくに緊密に内容的連携が図られているわけではないが,国の統治システムとそれが成立する背景については,結果的に学習者の中でよくむすびついている様子が窺える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インドネシア社会科および公民科教科の分析,日本にいて道徳が特別教科化され市民性教育が社会科と道徳の2教科体制で行われる場合の歴史教育が担うべき役割についての理論的考察,日本とインドネシアにおいて相手国に関する認識や判断に社会認識系教科による学習がどの程度反映されているかについての調査を行ったことで,インドネシアにおける2教科体制の市民性教育カリキュラム編成原理の全体像の解明が進むと同時に,特に歴史教育の2教科体制への位置づけの実際と可能性について検討することで,日本における2教科体制市民性教育カリキュラム編成への重要な示唆を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
インドネシア社会科および公民科教科書の分析をさらに進め,2教科体制の市民性教育カリキュラム編成原理を解明すると同時に,日本の社会科および道徳と比較検討し,あるべき市民性教育カリキュラムについて検討する。
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