研究課題/領域番号 |
15K04505
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
松本 由香 琉球大学, 教育学部, 教授 (70259274)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 染め織り / 沖縄 / 衣生活教材 / 地域生活 / コミュニケーション / ワークライフバランス / 生き甲斐 / 創作 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、「染め織りがもたらす地域生活でのつながり:家族と地域のつながり・高齢期の生き甲斐・相互扶助・世代間の伝承と移住者の継承」をテーマに、調査研究を行った。具体的には、本部町伊豆味と名護市源河で琉球藍の調査(6月)、小浜島の織布展調査(7月)、与那国島の工房・中学校調査(9月)、本部町伊豆味での豊年祭調査(9月)、久米島の染め調査(11月)、読谷村と那覇市の紅型工房調査(1月)を行った。 調査結果より、本部町伊豆味では、泥藍は藍葉生産農家が減少する中で、1軒の工房でつくられ続け、伊豆味地区、本部町、沖縄県や国の補助を受けながら継承されている。小浜島では、染め織りは高齢女性たちの楽しみ・生き甲斐となっていて、女性たち相互のコミュニケーションをはかる役割をもっている。これはつくり手相互のつながりをもたらし、家族から地域へと広がっている。久米島の染め織りは家族で行われ、つくり手たちは、家事・育児・パートタイマーの仕事をこなしながら、生活の中で染め織りを行っている。特に泥染めの工程については、その作業に、家族とともに近隣の親戚や織り仲間が加わり、地域での相互扶助で行われていることがわかった。与那国では、沖縄戦後、与那国織の復興が行われ、与那国織を継承する地元出身のつくり手とともに、1980年代から島に移り住むようになった本土出身の女性たちによっても、与那国織が行われてきた。特に外からの目で与那国織の魅力を強く感じた本土出身者たちは、与那国織の伝統・特徴を、島出身のつくり手と共有しながら、それぞれのつくり手たちの個性を表した創作を行っている。 以上の本部町伊豆味、小浜島、久米島、与那国島の事例から、染め織りが、家族・地域の人々の日々の暮らしの中でワークライフバランスをもって営まれ、家族・地域の人々につながりをもたらす役割をもっていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究実施計画は、「染め織りがもたらす地域生活でのつながり」であり、計画通りに本部町伊豆味、小浜島、久米島、与那国島で聞き取り調査を行った。所属機関での学内業務分掌のため、実際に調査に出られた期間は短縮を余儀なくされたが、精力的・効果的に聞き取り調査を行ったため、おおむね目標としていた調査研究を行うことができ、有益な資料を収集することができたと思う。 調査を行い、得られた聞き取り調査結果からまとめられる地域ごとのテーマとその項目は次の通りである。1.本部町伊豆味:家族と地域でつくる琉球藍(山藍)(1)伊豆味の山藍の歴史と現状、(2)藍葉栽培と泥藍づくり、(3)家族・地域でつくる山藍、2.小浜島:高齢期の暮らしを彩るインド藍(クモアイ)染織(1)小浜島の藍染めと織り、(2)高齢者の暮らし、(3)織布展と結願祭の事例、(4)女性の暮しと染め織り、3.久米島:泥染めとユイマール(相互扶助)(1)久米島紬の歴史と現状、(2)家庭生活の中での染め織り、(3)ユイマールで行う泥染め、(4)地域の暮らしの中で守られてきた久米島紬、4.与那国島:与那国織にみる世代間の伝承・移住者による継承(1)与那国織の歴史と現状、(2)世代間の伝承、(3)移住者の継承、(4)地域生活でのつながり、である。以上の各テーマ、各項にしたがって報告書を執筆している。その内容をもとに、今後、衣生活教材を作成していく。 なお平成27年度には、一部、平成28年度のテーマに含まれる紅型について調査する機会が得られ、那覇市と読谷村にある工房4軒で聞き取り調査を行った。これらの得られたデータについては、平成28年度の調査研究結果に含めて考察する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、研究を計画通りに推進していくつもりである。ただし、所属機関内での業務分掌の状況を考え、調査をより進め、考察を深めるために、平成28年度から新たに研究分担者1名に加わってもらうことにした。 平成28年度には、計画通り、研究テーマを「地域文化の探求」とし、「地域文化の再発見・創造・衰退と維持・伝統との関わり」の視点で、各地の染織のあり方について考察する。各地の染織の特色については、大宜味村喜如嘉:芭蕉布の「自然布」考察、那覇市:琉球王朝と古紅型の考察、那覇市:琉球王朝と首里織、うるま市:伊波メンサー織のルーツ探求、うるま市:市町村合併と蘭からふ、読谷村:読谷山花織のルーツ探求、沖縄市:知花花織の伝統再発見・再興、浦添市:うらそえ織の行政によるまちおこし、豊見城市:ウージ染めの生活工芸品によるまちおこし、宮古島:宮古上布の伝統と創造、があげられ、各テーマにしたがって聞き取り調査を行う。 平成29年度も計画通り、研究テーマを「経済性の追求」とし、「生産性の追求・観光化の影響・経済性の再考」の視点で、各地の染織のあり方について考察する。各地の染織のあり方については、南風原町:生産性を工夫した琉球絣、石垣島:八重山上布の摺り込み捺染技法、奄美大島:生産性で他地域に影響を及ぼしてきた大島紬、竹富島:ミンサー織と観光化、西表島:芭蕉交布のサスティナブル・デザイン、があげられる。各テーマにしたがって聞き取り調査を行う。 平成30年度には、研究計画にあげた調査地のうち、必要な地域の追加調査を行う。そして平成27~29年度の調査報告書をふまえ、研究協力者のアドバイスを受けて、沖縄の染織と人々の暮しについての衣生活教材の原稿を完成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、研究計画にしたがって研究を進め、おおむね順調に成果をあげることができた。しかし所属機関での学内業務分掌によって出張に当てる期間を短縮することが余儀なくされ、旅費の支出が当初の計画より少なくなったため、次年度使用額が生じた。 平成28年度以降、研究の更なる進展をはかり、考察を深めるため、新たに研究分担者1名に加わってもらうことにした。したがって研究費の範囲内で、研究計画にしたがって更に精力的に聞き取り調査を行い、資料を収集して、効率よく調査研究を進め、研究成果をあげていく。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度以降、研究分担者1名に加わってもらうことにより、調査をより進展させ、研究内容・考察をより深めることを行っていく。 したがって研究費使用計画としては、調査地は、当初の計画通りとし、平成28年度は、沖縄本島(大宜味村、那覇市・豊見城市、浦添市、読谷村、沖縄市、うるま市)、宮古島とし、平成29年度は、沖縄本島(南風原町)、石垣島、竹富島、西表島、奄美大島とする。平成30年度は、必要な地域の追加調査を行い、衣生活教材の原稿を完成する。 研究費使用の年次別内訳については、当初の計画通りとするが、その範囲で、研究代表者と研究分担者とで分配して使用する。
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