今回の科研では、日本とフィリピンにおける(自然)災害後においても、子ども達(児童・生徒・青少年)の人格形成をサポートする方途として”ナラティヴ”の概念とそれに基づくナラティヴ・アプローチの推進によって、どれだけマイナスの経験を克服し、自己肯定感を維持・向上していけるかについて、日本の東北地域及びフィリピンにおける台風ヨランダの影響を受けたネグロス島及びマニラを中心に現地調査を実施した。学校訪問を続けた結論として理解できたことは、自然災害等による家族の喪失などの影響は如何なるアプローチによっても完全に回復させることはできないということである。しかし、同時に、それらの負の経験を通して、人生観を深め、他者に寄り添い、地域社会の再生・再建の為に貢献する人々の姿に触れ、都市部においては失われがちな人的交流を活性化させ、新たな地域文化を創出し、また、自身の存在意義を地域再建と創生にかける多くの青年の方々との出会いを持つことができた。その実践こそがナラティヴ・アプローチが精神的に大きな負担をおっている子ども達のケアや一人一人への声掛けなど、学校教育の活性化には大変有用であることも観察できた。一方で、学校-家庭-地域社会の連携の醸成を図るための方途としてのナラティヴ・アプローチに関しては、その臨床心理学的な実践をさらに深め、またはその知見に基づきながら、新たな地域社会の実践的な取り組み、人間関係の形成、共に家族を失ったもの同士の心からの励ましがなければ、現実社会という多様で複雑な社会状況において、ナラティヴ・アプローチの可能性を引き出すことが難しい場面も多いと感じる機会もあった。ナラティヴ・アプローチの方法論と手法を学校教育のニーズにあわせて再開発し、地域社会を念頭においた学校教育による地域活動の在り方を開発することが求められていると強く感じるととに、今後の課題と明らかにした。
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