今年度は知的障害児と重度重複障害者を対象とした実践として、1)要求行動をサイン化しコミュニケーション機能の拡大を図ることを目的とした指導、2)OAK Camシステムを用いたモーションヒストリー機能による分析、を試みた。 結果、1)については機会利用型による指導によりサインを示す回数は上昇し、サインも正しい形が出現するようになった。さらに「伝わる」体験を積み重ねた成果が見られ、コミュニケーション機能の拡大が図られた可能性が示唆された。2)については、ビデオ分析においては、顔全体(表情)の動きでは全ての指導回において口の周囲の動きが確認された反面、他の部位の動きはほとんど確認することができなかった。一方、OAK Camシステムを用いたモーションヒストリー機能による分析では、ビデオによる確認が難しかった鼻翼周囲の動きが確認されると同時に、口を開けたままの状態で確認される舌の動きが出現後に口角が動いていることも確認された。今までは口角を上げるといった動作のみでの評価であったが、口角を上げる前に鼻翼周囲の動き、あるいは舌の動きがすることが確認できたことで、「Yes」の意思表出と捉えられていた動きが出現する予兆行動様の動きが特定された。他の事例でも同様に、ビデオ記録では反応の確認が難しい重度重複障害者であってもモーションヒストリー機能による分析により、鼻翼や口唇の動きが視覚的に確認された。これにより、反応の評価が療育者の印象や抽象的な表現にとどまり、反応に対するフィードバックが難しい重度重複障害者においても、療育者が的確にフィードバックできる可能性が示唆された。 今回得られた分析結果の活用は、療育者の抽象的な表現による応答行動(反応)を視覚化することで、動きのサイン化につなげるための着眼点を得る契機になりうること、重度重複障害者の反応(応答)しやすい環境作りにも寄与できると考えられた。
|